【全貌まとめ】江口寿史氏のトレパク騒動、何が起き何が問題だったのか?何が『信頼』を損なったのか?企業の対応まで徹底解説

【2025年最新】江口寿史トレパク事件の全貌。クリエイターが知るべき著作権と倫理の注意点を徹底解説した記事のアイキャッチ画像。

約18900文字 / 読了目安:約48分

日本のイラストレーション界を代表する一人、江口寿史さんの「トレパク(トレース・パクリ)」を巡るニュースを毎日のように目にしていました。

彼の描く、デザインのように引き算された洗練された女性像は、私自身デザイナーを目指す以前から憧れの対象でした。その線一本一本に込められたセンスに影響を受けてきたクリエイターは、数えきれないほどいるはずです。単なる人気イラストレーターではなく、多くの作り手にとって「巨匠」とも呼べる存在だったからこそ、この騒動を知った時はこれまでの憧れの気持ちを裏切られたように感じ、モヤモヤした気持ちを抱えました。だからこそ、今回の騒動はただのゴシップじゃない。私たち自身のもの作りのあり方や、権利、そして倫理について深く見つめ直す問いを投げかけています。

また、私自身も以前の職場で、外注の制作物が権利侵害をしていたことが大きな問題となり、ディレクターとしてそのチェックの重要性と難しさを痛感してきた経験があります。作り手としての個人的な感情と、権利を管理する側の視点、その両方から今回の騒動を詳しく解説していきます。

この一件は、一人のトップクリエイターの過ち、というだけで片付けられる問題ではありません。アナログ時代の感覚と、デジタルの世界がもたらした徹底した透明性、そしてSNSが生み出した「世間の目という法廷」とも言える新しい現実がぶつかり合った、私たちにとって、とても大きな意味を持つ出来事だったと感じています。彼が築き上げた高い名声は、疑惑に対する盾になるどころか、むしろ「巨匠だからこそ許せない」という、人々の深い裏切りの感覚を大きくしてしまう装置のように働いてしまったのです。

今回は、この江口寿史さんの騒動の経緯を丁寧に追いながら、何が問題だったのか、そして私たちクリエイターがこの苦い事例から何を学び、未来の創作活動にどう活かしていくべきなのかを、同じ作り手の仲間として、一緒に考えていきたいと思います。

【簡易免責事項】
本記事はデザイナーとしての実務経験に基づく解釈や考察であり、法的助言ではありません。規約の確認や最終的な判断は、必ずご自身で公式サイトの最新情報(一次情報)にてお願いします。

【結論】この記事のまとめ

🔥 騒動の本質:法律違反以上に、過去の発言と矛盾した「倫理観」が問われた。
💔 信頼の失墜:ファンの失望の根源は、プロとしての「暗黙の約束」を破ったことにある。
🏢 企業の結論:法的な和解よりも「世間の評判」を優先し、即座に使用を中止。
📚 業界の課題:クリエイターの誠実さと、企業の確認体制の両方が見直されるべき問題となった。

この記事で分かること📖
📜 騒動の全経緯:発端の広告から、企業の素早い「損切り」対応まで、一連の流れを時系列で解説。
⚖️ 問題の根っこ:法律的に何が「アウト」だったのか?著作権と肖像権の論点を分かりやすく整理。
💔 信頼が崩れたワケ:法律以上にファンが失望した「過去の発言」と「倫理観」の問題の核心。
🔄 古塔つみ事件との比較:なぜ今回の炎上が、より速く激しく燃え広がったのか、社会の「学習効果」を分析。
📚 未来への教訓:クリエイターがキャリアを守るために、今すぐ実践すべき具体的なアクションを提案。

目次

一体何が起きたのか?騒動の経緯を振り返る

江口寿史トレパク騒動の経緯。発端となった広告から企業の「損切り」判断まで、SNS時代の「世間の目という法廷」が下した判決を象徴するイラスト。
発端は一枚の広告だった。江口寿史氏のトレパク騒動が、なぜこれほど大きな炎上へと発展したのか、その全経緯を時系列で詳しく解説します。

まずは、今回の騒動がどのようにして始まり、広がっていったのか、その流れを時間順に見ていきましょう。

発端は一枚の広告イラスト

すべての始まりは、2025年10月、ルミネ荻窪が主催するイベント「中央線文化祭2025」の広告ビジュアルでした。江口寿史さんが手掛けた、彼の持ち味である洗練された女性の横顔が描かれたそのイラストは、イベントの顔となるはずでした。

しかし、広告が公開されると、文筆家やモデルとして活動する金井球(かない・きゅう)さんが、そのイラストの女性が自分であることに気づきます。彼女は、自身のSNSに投稿した写真が無断で仕事に使われているのではないかと感じ、主催者側に問い合わせを行いました。

これに対し、江口さん自身がX(旧Twitter)で反応します。彼は、そのイラストが「インスタに流れてきた完璧に綺麗な横顔を元に描いた」ものだと認めました。作家本人が、無断で他者の写真を元に商業作品を制作したと認めたこの瞬間が、大きな炎上の火種となったのです。

火に油を注いだ最初の対応

問題が明らかになった後の江口さんの対応は、事態を落ち着かせるどころか、多くの人々の気持ちを逆なでするものでした。

彼はXで、金井さんと連絡を取り、後から許可をもらったと報告しました。しかし、その投稿には、多くの人が求めていたであろう謝罪や詳しい経緯の説明がありませんでした。むしろ、問題が丸く収まったかのような口ぶりで、「金井さんの今後の活動にも注目してくださいね」と締めくくったのです。(問題が大きくなった後、投稿は削除されていますが、現在も投稿のスクショが広く拡散されています。)

この対応に、SNS上では「もしモデルの本人が気づかなかったら、そのままにするつもりだったの?」「無断で人の写真を使ってお金をもらっておきながら、謝罪もないのはおかしい」といった厳しい批判が噴き出しました。

仕事としてお金が動く作品で、本来なら事前に得るべき許可を、問題がバレてから取る「事後承諾」で済ませようとする姿勢は、多くのファンやクライアントにとって「作り手としての約束を破る行為」と受け取られても仕方ありません。特に、江口さんのような影響力のある人物がこのような対応を取ったことは、「大物だから許されるのか」という新たな火種を生み、批判をさらに大きくしてしまいました。

一方で、モデルとなった金井球さんの対応は、非常に冷静で、一人の人間としての尊厳を感じさせるものでした。彼女は、後からクレジットの表記と使用料の支払いがあったことを認めつつも、自身のXにこう投稿しました。

「わたしはわたしだけのものであり、人間としてさまざまな権利を有しております。」

相手を激しく責めることなく、しかし静かに、そしてはっきりと自身の権利を主張したこの言葉は、この問題が単に「和解した」という話ではなく、根本的な権利侵害の問題であることを社会に強く印象づけました。これは、大きな力を持つ相手に対して、自身の尊厳と法的な権利を冷静に主張する、見事な対応でした。

ネットの「特定班」が過去作を次々と検証

江口さんの不誠実とも取れる対応は、インターネット上でデジタル調査を得意とする「特定班」と呼ばれるユーザーたちの活動に火をつけました。彼らは、これが一度きりの過ちではなく、長年の制作活動の中で当たり前に行われてきたのではないかと考え、江口さんの過去の作品について、元になった写真の特定作業を一斉に開始したのです。

この動きは「特定祭り」とも言える状況になり、疑惑はもう誰にも止められないレベルまで広がります。そして、次々と衝撃的な事実が明らかになっていきました。疑惑の対象となったのは、いずれも私たちがよく知る有名企業とのコラボ作品でした。

Zoff(ゾフ)

メガネ店のコラボイラストが、ある写真とそっくりだと指摘されました。当初、Zoffは「事実関係の確認を進める」と発表していましたが、2025年10月24日、「江口寿史氏制作イラストに関するご報告」と題した公式リリースを発表しました。

江口氏からは、当時納品されたイラスト4点のうち、SNS上で指摘のあった2点について、雑誌に掲載された写真を、モデルの方ご本人や撮影者、出版社などの権利者から許諾を得ないまま参考に制作したとの説明がありました。
また、制作当時、その経緯ついて広告代理店および当社への報告はありませんでした。Zoff公式サイト「江口寿史氏制作イラストに関するご報告」より引用

これにより、これまで「疑惑」とされていた点について、江口氏本人が「無許諾での参考」を認めたことが公的になりましたこれは、騒動の経緯において非常に大きな進展です。Zoffはモデルや出版社などに謝意を伝え、許し(宥恕)を得たとしていますが、補償については江口氏側と関係者間で協議中としています。

Denny’s(デニーズ)

ファミリーレストランのメニューに使われたイラストが、女優・新木優子さんの写真と構図がそっくりだと検証画像が広まりました。デニーズジャパン公式サイトでは「当社の広告等媒体物のイラストについて(PDF)」が公開されており、使用を控える対応がとられています。

その後、2025年11月7日にデニーズジャパンは当社の広告等媒体物(江口寿史氏デザインのイラスト)に関するご報告と題した調査結果を公式に発表しました。

それによると、2023年9月に納品されたイラストについて、江口氏側から「権利関係の許諾の必要性についての認識はなく、人物部分に関して商業雑誌からの引用でイラスト制作を行った」との説明があったことを明らかにしました。(※2024年9月納品分については引用はなかったと回答)

この「権利の認識はなかった」という説明は、まさにこの記事の後半でも触れている「ブーメラン効果」を象徴するものです。江口氏自身が過去に、ネット上の画像の扱いなどについて他者の権利意識の低さを厳しく指摘していた経緯があるため、今回の説明はそれらの発言と真っ向から矛盾します。この点が、多くのファンやクリエイターの失望をさらに深める決定的な要因となりました。

デニーズ側はこれを「制作物に対する確認体制の不備が招いた事案であると猛省」していると述べ、管理体制の強化を徹底すると発表。Zoffのケースと同様に、クリエイター本人とクライアント企業の両方が、権利確認プロセスの不備を認めるという結果になりました。

新木 優子さんは、日本を代表する大手芸能プロダクション「スターダストプロモーション」所属です。無断トレースが事実であれば、イラストを使用したグッズ販売が水面下で大きな問題になっているのは容易に想像できます。

クレディセゾン

クレジットカード会社のキャンペーンイラストにも、元ネタと疑われる写真の存在が指摘されました。事実関係の確認および精査中で、今後の対応が明らかになるまで、 イラストの使用を見合わせると発表されています。

【続報】当社イメージキャラクターのイラストに関する対応について

クリエイターの信頼失墜がもたらす致命的な結果を示す一例。江口寿史氏のイラストについて「使用見合わせ」という重い対応を発表したクレディセゾンのWebサイト。
「巨匠」の名も盾にはならない。クレディセゾンが下した「使用見合わせ」という苦渋の決断。これは、たった一つの疑惑が全キャリアを揺るがすことを全クリエイターに突きつけた、厳しい通告です。

熊本ワインファーム

その他の企業とのコラボレーションについても、同じような疑惑が次々と浮かび上がり、熊本ワインファームでは商品の取扱停止となっています。

これらの疑惑は、単なる噂話ではありません。イラストと元写真を重ね合わせ、輪郭線までが一致することを示すような、具体的な証拠と共に示されました。これらの「動かぬ証拠」が次々と明るみに出たことで、江口さんの創作プロセスそのものに対する信頼は、根っこから揺らぐことになったのです。

相次ぐ企業の「江口さん離れ」

江口寿史氏のトレパク騒動の発端となったルミネ荻窪が、問題のビジュアルを「今後一切使用しない」と発表した公式サイトのお知らせのスクリーンショット。
すべてはここから始まった。騒動の発端であるルミネ荻窪が下した「今後一切使用しない」という最も重い決断。当事者間の和解があっても企業のブランドイメージを守ることを優先したこの対応が、他社の追随を招く引き金となりました。(※現在はページ削除済み・アーカイブリンク)

疑惑が常習的なものであった可能性が濃くなると、江口さんを起用していた企業は、自社のイメージが傷つくという大きなリスクに直面しました。ここから、各社による素早い「江口さん離れ」がドミノ倒しのように始まります。

発端となったルミネ荻窪は10月3日に「『中央線文化祭2025』に関するお知らせ(※現在はページ削除済み・アーカイブリンク)」とし、10月6日には「該当ビジュアルを今後一切使用しない(※現在はページ削除済み・アーカイブリンク)」と発表しています。
10月4日にZoffが「事実関係の確認を進める」と発表し、10月7日にはクレディセゾンが「使用を見合わせる」と発表。そして騒動が激しくなった10月6日、デニーズも江口さんデザインの全イラストの「使用を控える」という厳しい対応を決めました。

この一連の対応で重要なのは、企業が裁判所の判断などを待たずに、すぐに意思決定を下した点です。特に、発端となったルミネ荻窪の対応は象徴的でした。江口さんと金井さんの間では後から合意がなされ、法律の上ではクリアになったはずでした。にもかかわらず、ルミネ荻窪は広告の「今後一切使用しない」という最も厳しい決断を下しました。

これは、たとえ法律の問題が解決しても、一度「作り手として問題あり」と世間に認識されたものを、自社の顔として使い続けることはできない、という現代の広告における厳しい現実を示しています。彼らの行動は、裁判所ではなく「世間の目という法廷」における会社の評判を守るための判断だったのです。この素早い企業の離反は、クリエイターの倫理的な問題が、いかに直接的で深刻なお仕事へのダメージにつながるかを、私たちに見せつけました。

注目ポイント📌
🔑 発端:イベント広告で、モデル本人が無断トレースを発見したことから始まりました。
🔥 炎上:江口さんの謝罪のない「事後承諾」的な対応が、批判を大きくさせました。
🕵️ 拡大:ネットの「特定班」により、Zoffやデニーズなど過去の商業作品にも疑惑が次々と浮かび上がりました。
🏢 結末:企業は自社のイメージを守るため、法的な決着を待たずにイラストの使用を中止。作り手としての問題がお仕事のダメージに直結することを示しました。

なぜ問題になったのか?法律と倫理の「論点」を整理する

トレパクはどこからが違法?江口寿史氏の事例で学ぶ、著作権(複製権・翻案権)と肖像権の境界線。クリエイターが陥る危険な罠を示す警告イラスト。
写真のトレースは「参考」か、それとも「盗用」か。著作権や肖像権など、法律的に何が「アウト」だったのかを分かりやすく解説します。

この騒動を見て、「他人の写真を真似て描くことの、何がそんなに悪いことなの?」と感じた方もいるかもしれません。この問題を正しく理解するためには、まず言葉の意味を整理して、その上で法律的な側面と、それ以上に重要かもしれない人としての約束、つまり倫理的な側面の両方から考える必要があります。

そもそも「トレパク」って何?

まず、似たような言葉を整理しておきましょう。これらはもの作りの現場で使われる言葉ですが、それぞれ意味が違います。

  • トレス(Trace):元の写真やイラストの上に紙などを重ねて、線をなぞって写し取ることです。
  • 模写(Copy):元の対象を見ながら、それをそっくり真似て描くことです。
  • 参考(Reference):資料から構図やアイデアのヒントを得て、自分自身のオリジナル作品として表現し直すことです。
  • パクリ(Plagiarism):他人の作品を盗んで、自分のものとして発表すること。「トレパク」は、この「トレス」による「パクリ」行為を指す言葉です。

練習のために個人的にトレスや模写をすること自体は、問題はありません。でも、それを許可なく公開したり、仕事として発表したりすると、話は全く別になります。

クリエイターが知っておくべき「権利」の基本

まず大切なこととして、筆者は法律の専門家ではありません。

ここからの解説は、法的な助言ではなく、あくまで私たちクリエイターが活動を守るために知っておくべき「基本的な論点」を、デザイナーとしての実務経験から整理するものです。特に、実務上の「リスク」として認識すべき点を中心に解説します。

正確な法的判断が必要な場合は、必ず弁護士などの専門家にご相談ください。

では、クリエイターとして絶対に知っておくべき基本をおさらいしましょう。今回の件では、主に「著作権」と「肖像権」という2つの権利が関わってきます。

写真にもしっかり発生する「著作権」

写真も、撮った人の考えや感情が創作的に表現されたものであれば、「著作物」として法律で守られます。他人の写真を無断でトレースしてイラストにし、それでお金が絡む仕事をする行為は、著作権の中のいくつかの権利を侵害してしまうかもしれません。

  • 複製権(ふくせいけん):すごく簡単に言うと、「そっくりそのままコピーする権利」です。写真をなぞって写し取る行為は、この権利の侵害にあたる可能性があります。近年、写真を高精度のイラストに変換できるアプリやAIが存在します。デザイナーにとってもしっておく必要がある権利の一つだと筆者は考えています。
  • 翻案権(ほんあんけん):これは「元ネタをアレンジする権利」です。写真という表現形式を、イラストという別の表現形式に変えることは、この「翻案」にあたります。アレンジ後の作品から「元になった作品の表現上の大事な特徴を直接感じ取れる」場合に、この権利の侵害と判断される傾向があります。江口さんのイラストは、顔の角度や視線など、元写真の創作的な特徴が色濃く残っているように見えるため、この権利の侵害にあたるのではないか、と厳しく指摘されています。

「顔」を使うことの重さ:肖像権とパブリシティ権

次に、とても大切なのが「肖像権」です。これは、自分の顔や姿を無断で撮影されたり、公開されたりしない権利のことで、法律にハッキリ書かれているわけではありませんが、裁判例などで認められてきた重要な権利とされています。

金井球さんのケースのように、特定の個人が写っている写真を本人の許可なくトレースし、広告のような多くの人の目に触れる場所で公開する行為は、この肖像権を侵害する可能性が指摘されています。

さらに、デニーズのイラストの元ネタとされた新木優子さんのように、写っている人が有名な女優やタレントの場合、「パブリシティ権」という権利も関わってきます。これは、有名人の名前や肖像が持つ「人を惹きつける力(経済的な価値)」を守るための権利です。有名人の写真を無断で仕事に使えば、このパブリシティ権の侵害を問われるリスクも考えられます。

法律以上に重い「信頼」の問題

私は法律の専門家ではないため詳細な解説は避けますが、しかし、今回の騒動で人々が感じた怒りや失望は、こうした法律の話だけでは説明できません。むしろ、一人のプロのクリエイターとしての倫理観、その「あり方」に対するものが大きかったように思います。

過去の発言が自分に返ってくる「ブーメラン効果」

炎上が大きく燃え広がった原因の一つに、江口さん自身の過去の発言がありました。彼は以前、漫画の背景に写真を使う手法を批判したり、「ネット上の画像はフリー素材だと思っている人がいる」と、他者の権利意識の低さを指摘するような発言をしていたのです。

これらの発言が掘り起こされたことで、今回のトレース行為は「お前が言うな!」という強烈なブーメランとなって彼自身に突き刺さりました。これは単なるミスではなく、自らの信念を裏切る行為だと見なされ、人々の失望を何倍にも大きくしてしまったのです。

もの作りにおける「暗黙の約束」を破ったこと

そして何より、ファンやクライアントが最も裏切られたと感じたのは、もの作りにおける根本的な信頼関係を揺るがした点ではないでしょうか。

私たちは、プロのクリエイターが生み出す作品に、その人ならではの視点、技術、そして試行錯誤の末にたどり着いた「オリジナル」の価値を期待しています。その期待に対し、他者の写真をなぞるという簡単な手法に頼っていたとすれば、それは失望されても仕方ありません。

この「暗黙の約束」を破ってしまったことが、作品の価値そのものを疑わせ、作家としての存在価値さえも危うくしてしまったのです。

チェック機能が働かなかった業界の仕組み

この問題は、江口さん個人の倫理観だけに留まりません。彼が手掛けた作品が、広告代理店やクライアント企業という何重ものチェック機能を持つはずの商業プロセスを通り抜けて世に出ていたという事実は、業界全体の仕組みの問題を浮かび上がらせます。

本来であれば、企業はクリエイターに仕事を頼む際、その成果物が第三者の権利を侵害していないかを確認する責任があります。しかし、今回の事例でX(旧Twitter)に数多く投稿された比較画像を見ると、元ネタが過去のファッション誌の写真など多岐にわたるため、企業側のチェックでこれらを発見するのは現実的ではありません。だからこそ、江口さんの「巨匠」という名声への過信が生まれてしまったのでしょう。「まさか、あの江口寿史氏が」という巨匠への信頼が、制作プロセスに対するチェック機能を事実上、麻痺させていた可能性は高いでしょう。

本来であれば、企業はクリエイターに仕事を頼む際、その成果物が第三者の権利を侵害していないかを確認する責任があります。しかし、今回の事例でX(旧Twitter)に数多く投稿された比較画像を見ると、元ネタが過去のファッション誌の写真など多岐にわたるため、企業側のチェックでこれらを発見するのは現実的ではありません。だからこそ、江口さんの「巨匠」という名声への過信が生まれてしまったのでしょう。まさかこれほどの大御所が他人の権利を侵害する「トレパク」を行っているとは予想もできず、その制作プロセスに対するチェック機能が事実上、働いていなかった可能性が高いのです。

そしてこの推測は、2025年10月24日に発表されたZoffの公式報告によって裏付けられました。Zoffは、

江口氏からは、当時納品されたイラスト4点のうち、SNS上で指摘のあった2点について、雑誌に掲載された写真を、モデルの方ご本人や撮影者、出版社などの権利者から許諾を得ないまま参考に制作したとの説明がありました。

また、制作当時、その経緯について広告代理店および当社への報告はありませんでした。残る2点のイラストについては、江口氏の知人をモデルとし、ご本人が撮影した写真をもとに制作されたことを確認しております。

(出典:江口寿史氏制作イラストに関するご報告|zoff より一部引用)

江口氏が「許諾を得ないまま参考に制作した」ことを認めたと報告すると同時に、制作当時、その経緯ついて広告代理店および当社への報告はありませんでしたと明記しました。これは、まさにチェック機能が働かなかった(働きたくても働けなかった)ことを示しています。

興味深いのは、Zoffが示した「当社の方針」です。Zoffは「江口氏の創作活動や表現手法そのものを否定するものではありません」「トレースや写真を参考にすることは、イラスト表現の一つとして尊重されるべき」と前置きした上で、問題の本質は「権利への配慮が不足していた点」と「権利許諾の確認および報告の手続が不十分であった点」にある、と結論づけています。これは、法律論以前の「プロセス」と「誠実さ」の問題が、企業との取引における信頼の根幹であったことを明確に示しています。

そしてこの構造は、デニーズジャパンが11月7日に発表した公式報告でも同様に示されました。デニーズもまた、江口氏への長年の敬意は変わらないと前置きしつつ、今回の事態を「当社といたしましては、制作物に対する確認体制の不備が招いた事案であると猛省」していると、明確に自社の体制不備を認めています。

これは、単なる道義的な責任論ではなく、「発注者側にも法的なリスクがある」ということを企業が認識しているためだと、筆者は解釈しています。

読者の中には、Zoffやデニーズといった企業もまたクリエイターに裏切られた「被害者」であるはずなのに、なぜ自社の「確認体制の不備」をここまで猛省し、謝罪するのか、と疑問に感じた方もいるかもしれません。

実はこの問題は、筆者自身がディレクターとして勤務していた時代に、強烈な印象とともに学んだ事例があります。

当時、外注の制作物に関するリスク管理の社内講習で、まさに「発注者側の確認義務」についての事例として、「上野あかちゃんパンダイラスト事件」が取り上げられました。外部に仕事を任せることは、きちんと監修・確認できる体制がなければ、いかに危険であるかを痛感した教訓的な事例です。

実際、その講習で学んだ過去の著作権侵害の裁判(2019年・上野あかちゃんパンダイラスト事件)において、発注者である企業側は、

商品のパッケージ等は外注業者である補助参加人が制作したものであり、外注業者の制作に係るデザインについて、被告らが全てを管理することは事実上困難である。

(出典:2019/03/13“上野あかちゃんパンダ”イラスト事件|日本ユニ著作権センター より一部引用)

と主張しました。しかし、裁判所は以下のように判断し、発注者側の過失を認めました。

その製造を第三者に委託していたとしても、補助参加人等に対して被告イラストの作成経過を確認するなどして他人のイラストに依拠していないかを確認すべき注意義務を負っていたと認めるのが相当である。

(出典:2019/03/13“上野あかちゃんパンダ”イラスト事件|日本ユニ著作権センター より一部引用)

つまり、「外注(クリエイター)に任せていたから知らなかった」という言い訳は、少なくとも法的には通用しない可能性がある、ということです。

このような過去の事例からも、Zoffやデニーズが今回の事態を「クリエイター個人の問題」として切り離すのではなく、「自社の確認体制の問題」として謝罪したのは、自社のブランドイメージを守るためであると同時に、発注者として負うべき責任(リスク)をビジネス上、重く受け止めているからに他ならないでしょう。

Zoffとデニーズという二つの大手企業が、相次いで「クリエイターからの報告がなかった」「自社の確認体制に不備があった」と公表した事実は、これからのクリエイターとの仕事の進め方にも、新たな課題を投げかけます。例えば、今後は「画像生成AI」の活用がより一般的になるでしょう。イラストレーターが画像生成AIを活用すること自体は、決して悪ではありません。アイデア出しや、自分では思いつかないような構図・ポーズの参考にするなど、健全な活用方法は多く存在します。

しかし現時点では、「イラストレーターが画像生成AIを利用する」こと自体に、いわゆる偏見がつきまといがちです。これは、かつてデジタルでイラストを描くこと自体に否定的な意見が多かった時代を彷彿とさせ、イラストレーターが新しい技術(道具)と向き合う際には、常にそういった偏見のリスクも考慮しなければならないのかもしれません。

その結果、偏見を恐れてAIの利用を隠して仕事をすることが、クライアントとの間に新たな「中身が見えない箱」を作り出してしまいます。これは、ファンやクライアントがプロの作品に期待する「その人ならではの視点、技術、そして試行錯誤の末にたどり着いた『オリジナル』の価値」という暗黙の約束を揺るがす行為になりかねません。

この事件は、有名なクリエイターの評判に頼りきって、その制作過程を「中身が見えない箱」として扱ってしまう広告業界の慣習的な弱さを、はっきりと見せてくれました。そしてそれは、今後「AIをどう使っているか」という新たな中身が見えない箱に対し、権利侵害がないかという確認だけでなく、作り手としての透明性と誠実さという「暗黙の約束」に応えているかまで問われる、という課題をも突きつけているのです。

注目ポイント📌
⚖️ 著作権:写真にも著作権があり、無断でトレースして公開・販売することは「複製権」や「翻案権」の侵害になる可能性があります。
👤 肖像権・パブリシティ権:人の顔を無断でトレースして公開することは、その人の「肖像権」を侵害します。有名人の場合は経済的価値を守る「パブリシティ権」も問題になります。
🗣️ 過去の発言:江口さん自身が過去に創造性や権利について厳しく語っていたことが、今回の行為を「ブーメラン」として、より深刻な裏切りと見なされる原因になりました。
💔 信頼の裏切り:法律の問題だけでなく、プロのクリエイターとしてのオリジナリティへの期待を裏切り、ファンやクライアントとの信頼関係を損なったことが、最も大きな失望を招きました。

私たちはどこかで見た光景:古塔つみ氏の事例との比較

【既視感】江口寿史氏と古塔つみ氏、2つのトレパク事件の共通点を比較検証。SNS特定班の動きと社会の「学習効果」を象徴するイラスト。
なぜ今回の炎上はこれほど速かったのか?その答えは2022年の古塔つみ事件にあります。社会が一度「訓練」されていたことの意味を考察します。

江口寿史さんの騒動が報じられたとき、多くのクリエイターの頭の中に、ある事件が蘇ったのではないでしょうか。そう、2022年に起きたイラストレーター・古塔つみさんのトレパク事件です。この二つの事件はとても似ており、今回の騒動をより深く理解する鍵になります。

驚くほど似ている二つの事件

古塔つみさんも、人気音楽ユニットYOASOBIのキービジュアルを手がけるなど、まさに時代の最前線で活躍していた人気イラストレーターでした。彼のケースと江口さんのケースには、いくつかの重要な共通点があります。

  • 人気クリエイターによる商業作品での不正:どちらも、個人の趣味の範囲ではなく、企業の広告や商品のジャケットといった、お金が動く仕事の現場でトレースが行われていました。
  • SNS上の一般人の写真も利用:プロのモデルだけでなく、SNSに投稿された一般の人の写真が無断で元ネタにされていた点も同じです。これは、権利に対する意識の低さを物語っています。
  • 「特定班」による全貌解明:一つの疑惑から、ネット上の「特定班」が過去の作品を洗いざらい調べ上げ、常習的な行為であったことを突き止めた流れもそっくりです。

社会は一度「訓練」されていた

古塔つみ事件が、今回の江口さんの騒動に与えた最大の影響。それは、私たち社会が、特にネットユーザーが、この種の不正に対してすでに対応方法を「学習」し、「訓練」された状態にあったということです。

2022年の事件の時、多くの人がトレパクという行為の問題点を知り、疑惑を検証する方法や、企業に対応を求めるための一連の流れを経験しました。いわば、社会全体で一度「リハーサル」を済ませていたような状態だったのです。

そのため、江口さんの疑惑が持ち上がった時、社会の反応は前回よりもずっと速く、そして組織的でした。「なぜトレースがダメなのか」を改めて説明する必要はなく、非難の理屈はすでに人々の間で共有されていました。疑惑の提示から炎上、企業への問い合わせ、そして広告の取り下げまでが、非常に短い時間で、かつ激しい勢いで進んだのは、この「過去の学習」が大きかったと言えるでしょう

江口さんは、古塔つみ事件によって準備された舞台の上で、より厳しい目に晒されることになりました。彼の騒動は、全く新しい問題の発生ではなく、すでに多くの人が知っている物語の「続編」として、より速く、決定的な結末を迎えることになったのです。

注目ポイント📌
👥 共通点:江口さんと古塔つみさんの事件は、「人気イラストレーター」「商業作品でのトレース」「特定班による解明」という点で非常に似ています。
🎓 学習効果:古塔つみ事件を経験したことで、社会はトレパク問題への対応に「訓練」されていました。
🚀 反応の高速化:一度リハーサルを終えていたため、江口さんへの批判や企業への圧力は、前回よりも遥かに速く、激しく展開しました。
📖 物語の続編:江口さんの騒動は、新たな問題ではなく、社会がすでに知っている不正の物語の続編として、より厳しい結末を迎えました。

私たちクリエイターが学ぶべきこと:未来への安全策

全クリエイター必見。江口寿史トレパク事件から学ぶ、炎上しないための具体的アクション。自分のキャリアを守るための権利意識と誠実さを示すイラスト。
契約書の「表明保証条項」の重みを知っていますか?未来の失敗を避けるために、私たちが今すぐ実践すべき安全策を具体的に提案します。

この痛ましい事件を、ただのゴシップとして消費して終わらせてはいけません。これは、私たちすべてのクリエイターにとって、自分たちの活動を見直すための重要な教訓です。デジタルという、無限の可能性と無数の地雷が隣り合わせの時代で、私たちはどうもの作りと向き合っていくべきなのでしょうか。

クリエイター個人として、今すぐ意識すべきこと

まず、私たち一人ひとりが自分の心に刻むべきことから考えてみましょう。

権利意識を現代版にアップデートする

「ネットに落ちていたから」「鍵アカウントじゃなかったから」…こうした言い訳は、プロの創作活動の世界では通用しない、と厳しく認識しておくべきでしょう。SNSに投稿された一枚の写真であっても、撮った人には「著作権」が、写っている人には「肖像権」が存在します。この基本中の基本を、私たちは徹底的に体に染み込ませる必要があります。

特に、一般の人の投稿を「街で見かけた素敵な人をスケッチする」のと同じような感覚で安易に素材として使うのは、法的なトラブルに発展しかねない、非常に危険な側面があります。デジタルの世界では、そのスケッチが瞬時に世界中に広まり、元になった人を傷つけ、そして自分自身のキャリアを壊す可能性を秘めていることを忘れてはいけません

「参考」と「盗用」の間に線を引く

インスピレーションと盗用は、時に紙一重です。自分の画力を上げるために、尊敬する作家の作品を個人的に模写したりトレースしたりすることは、大切な練習の一つです。しかし、それを許可なく公開したり、ましてや自分の作品として販売したりすることは、明確に超えてはいけない一線です。

何かの資料を「参考」にする場合は、その構図やアイデアからヒントを得るに留め、必ず自分自身のフィルターを通して、全く新しい表現へと作り変える努力が求められます。元になった作品の「大事な特徴」がそのまま残ってしまうような安易な作り方は、常に「盗用」のリスクと隣り合わせだと肝に銘じましょう。

制作プロセスをクリーンに保つ

これからの時代のプロフェッショナルは、完成した作品だけでなく、その「制作プロセス」の透明性も問われます。特にクライアントとの仕事においては、どのような資料を参考にしたのかを記録し、いつでも説明できるようにしておくことが、自分を守るための新しい常識になるでしょう。

もし、特定の写真や人物を元に制作する必要がある場合は、必ず「事前に」「書面で」許可を得る。このプロセスを面倒くさがることが、将来的に取り返しのつかない事態を招くのです。

企業や代理店との仕事で気をつけるべきこと

フリーランスとして活動する私たちにとって、クライアントとの関係性も非常に重要です。この事件は、仕事を発注する企業側にも大きな課題があることを示しました。

契約書をしっかり確認する

クライアントと交わす契約書には、多くの場合、「納品する作品はオリジナルであり、第三者の権利を侵害しないことを保証する」といった内容の一文が含まれています。これは「表明保証条項」と呼ばれ、もし後から権利侵害が発覚した場合、クリエイターがその責任を負うことを意味する場合があります。江口さんのケースでは、企業が受けた損害を彼が賠償する責任を負う可能性も十分に考えられます。契約書にサインするということは、それだけ重い責任を負うという意識を持つべきでしょう。

「ベテランだから大丈夫」はもうない

今回の事件で明らかになったのは、広告代理店や企業が、江口さんの「トップクリエイター」という評判を信じ込み、その制作プロセスの確認を怠った事実です。元ネタが過去のファッション誌など多岐にわたるため、企業が類似画像を一点一点検索し、権利関係を完璧にチェックすることは現実的に不可能であり、だからこそクリエイター個人の倫理観と評判を信じるしかなかった、という背景もあるでしょう。Zoffの公式発表でも、江口氏側から「報告がなかった」ことが明記されており、この信頼関係を前提とした取引が実際に行われていたことがわかります。

しかし、この事件をきっかけに、その信頼関係のあり方は間違いなく変わります。企業側のクリエイターへのチェックは、今後厳しくならざるを得ません。納品物に対して「似たイメージの画像がないか検索をかける」といった確認作業は、もはや当たり前になるでしょう。

さらに、これは画像生成AIという新しい技術(道具)と向き合う上でも重要な視点です。企業側は今後、クリエイターがAIをどのように活用しているか(例えば、権利的にクリーンなAIか、どのように作品に寄与しているか)について、より高い透明性を求めるようになります。

私たちクリエイターは、「ベテランだから」「有名だから」という理由だけでは、もう仕事ができない時代に生きています。常に客観的な検証の目に晒されているという意識を持ち、自身の制作プロセスをいつでも誠実に説明できる準備をしておく必要があるのです。

これからのクリエイターに求められるもの

最後に、この事件が私たちクリエイティブ業界全体に問いかけている、より大きなテーマについて考えたいと思います。

プロセスが新たなブランドになる

かつて、クリエイターの創作過程は謎に包まれた「中身が見えない箱」でした。しかし今は、タイムラプス動画などで制作の裏側が簡単に見せられる時代です。これからは、完成した作品の素晴らしさだけでなく、その制作プロセスがいかに誠実であるか、という「プロセス」そのものがクリエイターの新たな信頼の証になります。安易な方法で時間を短縮する倫理的なショートカットは、いずれ必ずバレてしまい、作品の価値も作家の評判も、過去に遡って壊してしまうでしょう。

AI時代への備えを始める

今回の事件で問われた「何を元に、どう創作したのか」という問いは、これからAIと一緒にもの作りをする時代に、さらに重要性を増していきます。AIが生成した画像を参考にする場合、その元になったデータは誰の権利を侵害していないのか?AIの生成物をどこまで自分の作品と言えるのか?私たちは、今からこうした新しい倫理について考え、自分なりの基準を持っておく必要があります。この事件は、来るべきAI時代に必要とされる知識や判断力を考える上での、重要な出発点とも言えるのです。

誠実さこそが、活動を続けるための力

この事件が教えてくれるのは、「もの作りにおける誠実さ」が、もはや単なる綺麗事ではなく、クリエイターとして生き残り、活動を長く続けていくための最も重要な土台であるという事実です。

SNSによってすべてが見えるようになった時代において、信頼こそが最も価値のある資産です。そして、その信頼を一度でも失ってしまえば、どんなに素晴らしい才能や過去の実績があっても、それを取り戻すのは非常に難しいのです。

注目ポイント📌
🧠 意識の改革:ネット上の画像にも権利があることを再認識し、「参考」と「盗用」の境界線を厳しく自問することが必要です。
📝 プロセスの透明化:商業制作では参考資料を記録し、許可は必ず「事前に」「書面で」取る習慣をつけましょう。
🤝 契約の重み:契約書は、作品のオリジナリティと権利侵害がないことをクリエイターが保証するもの。その責任の重さを理解することが大切です。
🤖 未来への視点:「何を元に作るか」という倫理観は、AI時代にさらに重要になります。誠実なプロセスこそが、これからのクリエイターの信頼の証になります。

まとめ:一人の作家を超え、業界全体で考えるべきこと

江口寿史氏のトレパク騒動を超えて。すべてのクリエイターが制作活動と誠実に向き合うことの重要性。クリエイティブ業界の未来を考えるイメージ。
この事件は一個人の悲劇ではない。私たちクリエイターと業界全体が、より成熟した道へ進むための重要なきっかけとしなければなりません。

江口寿史さんのトレパク騒動は、単に一人の有名イラストレーターが起こした問題として終わらせるべきではありません。これは、日本のクリエイティブ業界が、時代の大きな変わり目に直面していることを象徴する出来事でした。

この一件は、権利についての世代間の考え方の違い、デジタルの時代における「どうやって作ったのか」を説明する責任の重さ、そしてSNSという「世間の目という法廷」が持つ、無視できない影響力を私たちに見せつけました。

たとえ当事者間で法律の上では話がついても、社会が下す「人としてどうなのか」という判断の前では、仕事としての価値が一瞬で失われてしまうリスクがあります。企業は、裁判所が下す判決よりも、SNS上で広まる評判のリスクを恐れ、すぐに関係を断ち切る。これが、私たちが生きる現代のリアルです。

Zoffが10月24日に発表した公式報告は、そのことを象徴していました。Zoffはトレースという手法自体を否定せず、問題の本質を「権利への配慮不足」と「報告の不備」にあるとしました。これは、企業側もまた、技術論ではなく、クリエイターの「誠実さ」と「プロセスの透明性」こそを取引の土台に置いているという明確なメッセージです。

11月7日に発表されたデニーズの報告も、「江口氏の創作活動ならびに生み出された作品の数々に対する我々の敬意は、変わるものではございません」としながらも、自社の「確認体制の不備」を猛省し謝罪するという内容でした。

これは、企業側もこの問題をクリエイター個人の倫理観だけに押し付けるのではなく、発注者・管理者側が持つべき責任として正面から受け止め、体制を見直すという具体的な行動につながっていることを示しています。

この厳しい現実から、私たちは目を背けることはできません。

この騒動が残した最大の教訓は、その警告の重さです。私たちクリエイター、そして仕事を発注するクライアントや広告代理店が、この警告に真摯に耳を傾け、行動を変えていく必要があります。

制作のプロセスをより透明にし、権利の確認を徹底する。そして何よりも、一つひとつの作品に、誠実に向き合う。この当たり前のことを、改めて自分たちの活動の真ん中に据えること。

信頼が失われたことは、一個人の悲劇であると同時に、私たち業界全体がより成熟し、より公正な道へ進むための、きっかけとでしょう。


この記事の制作プロセスについて
CreateBitの記事は、「AIをクリエイティブな時間を確保するためのパートナー」として活用し、すべて筆者の最終的な責任のもとで編集・公開しています。CreateBitのAI活用とコンテンツ制作に関するより詳しい基本方針は、こちらのページでご覧いただけます。

【免責事項】本記事は、2025年10月に発生したイラストレーター江口寿史氏に関する一連の騒動について、クリエイターの視点から情報を整理し、創作者が学ぶべき点は何かを考察することを目的としています。本記事で言及されている内容は、公に報道されている情報やSNS上で確認できる投稿を基に構成されていますが、その情報の完全性や正確性を保証するものではありません。また、記事内で展開される著作権や肖像権に関する見解は、あくまで筆者個人の解釈であり、法的な助言ではありません。特定の個人や団体を誹謗中傷する意図は一切なく、クリエイティブ業界全体の課題として考えるための一つの材料として提供するものです。本記事の内容を参照したことによって生じたいかなる損害についても、当ブログでは責任を負いかねますことを、あらかじめご了承ください。また、本記事内ではX(旧Twitter)の投稿をWordPressの埋め込み機能を利用して表示しておりますが、これはXの利用規約に準拠した正当な機能の利用であり、著作権法上の「引用」の要件を満たすものと考えております。このため、投稿者様個人への許可は得ておりませんが、万が一ご本人様より削除のご依頼があった場合には、速やかに該当箇所の削除対応をいたします。最新の情報や正確な法的判断が必要な場合は、必ず一次情報源をご確認の上、弁護士などの専門家にご相談いただきますようお願い申し上げます。

📚 参考ソース

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

元デザイン会社のディレクターです。クリエイティブ現場で役立つ効率化のコツ、便利なサービス、海外デザイン素材を紹介。AI時代のクリエイターの新しい働き方を深く掘り下げていきます。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次