もはや私たちの創作活動に欠かせない存在となった画像生成AI。その中でも特に「Stable Diffusion」は、多くのクリエイターが一度は耳にし、その可能性にワクワクしたことがあるのではないでしょうか。私自身、日々のデザインワークやイラスト制作で、アイデアの壁打ち相手として、また、面倒な作業をショートカットする相棒として、その恩恵を大いに受けています。
この素晴らしいStable Diffusionを開発・提供しているのが、Stability AIという会社です。
そして今回、このStability AI社が、私たちユーザーにとって非常に重要な発表をしました。2025年7月31日から、Stable Diffusionを含むサービスの「ルールブック」を新しくするというのです。
「利用規約」と聞くと、なんだか難しくて、つい読み飛ばしてしまいがちですよね。気持ちはすごく分かります。でも、今回ばかりは話が別。この変更は、私たちの創作活動の心臓部、つまり「Stable Diffusionで何が作れて、何が作れないのか」「作った画像の権利は誰のものか」に直接関わってくる、とても大切な話なんです。
この記事で分かること📖
⚖️ 新ルールの核心:具体的に禁止される「6つのNG行為」とその背景
💡 未来への備え:クリエイターが今日からできる具体的な「3つの対策」
💰 お金と権利の話:売上1.5億円まで商用無料の条件と、画像の所有権の行方
🏢 開発元の物語:Stability AIはどんな会社で、なぜルールを変えざるを得なかったのか
そもそもStable Diffusionと開発元Stability AIとは?

本題に入る前に、今回の主役である「Stable Diffusion」と、その生みの親である「Stability AI」の関係について、少し深く掘り下げてみましょう。この両者の関係性を理解することが、今回の規約変更の本質を掴む鍵になります。
AIをみんなのものに!革命を掲げた企業「Stability AI」
Stability AIは、「AI技術を、一部の巨大企業だけでなく、みんなが使えるようにしよう!」という、非常にパワフルなビジョンを掲げて登場した企業です。彼らが2022年に画像生成モデル「Stable Diffusion」の”脳”にあたる本体データ(モデルウェイト)をオープンソース、つまり設計図ごと無償で公開したことは、まさに革命的な出来事でした。
この決断は、AIの世界に衝撃を与えました。世界中の開発者やクリエイターが、まるで新しい絵の具を手に入れたかのようにStable Diffusionに飛びつき、改良を重ね、瞬く間に巨大なエコシステム(関連ツールやコミュニティを含めた環境全体)を築き上げたのです。
なぜ私たちはStable Diffusionを選ぶのか?
では、他にも優れた画像生成AIがある中で、なぜ多くのクリエイターはStable Diffusionに魅了されるのでしょうか。

圧倒的な自由度と「自分のアトリエ」感覚
最大の理由は、やはりオープンソースであることの自由度です。
これは他のサービスが、メニューが決まっているお洒落な「レストラン」だとすれば、Stable Diffusionは「プロ仕様の調理器具が揃った自分だけのキッチン」。自分のPCに環境を整えれば、誰にも邪魔されず、好きなだけ、心ゆくまで創作に没頭できます。
さらに、「AIに追加学習をさせる」技術(ファインチューニングやLoRA)を使えば、自分だけの画風やキャラクターをAIに覚えさせ、専属アシスタントに育て上げることまで可能です。この「道具を育てる」という感覚こそ、Midjourneyのようなクローズドなサービスにはない、道具にこだわるクリエイターの心を掴む本質的な価値なのです。
アイデアをくれる最高の相棒
そして私個人にとって、Stable Diffusionは単に「綺麗な絵を自動で描く機械」ではありません。クリエイティブな思考を拡張してくれる「最高の壁打ち相手」です。頭の中の漠然としたイメージを投げかけると、思いもよらないビジュアルを返してくれる。その膨大なラフスケッチが、私の思考を刺激し、新しいアイデアの扉を開けてくれるのです。
規約変更の背景:自由な時代の終わりと、成熟への試練
では、なぜそのStability AI社が、このタイミングでルールブックを新しくするのでしょうか。それは、彼らの作った「誰でも使える自由なアトリエ」が世界中に広まった結果、企業として社会の荒波を乗り越え、大人にならざるを得なくなったからです。
法的圧力:相次ぐ訴訟との対峙

最も大きな要因は、現実の法廷闘争です。特に、世界最大級のストックフォトサービスであるGetty Imagesが起こした訴訟は象徴的です。Getty Imagesは「我々の著作権で保護された画像を、許可なくAIの学習に使用した」と主張しています。
これに対しStability AIは「学習行為は英国外で行われたため、英国著作権法は適用されない」と反論するなど、裁判は複雑な様相を呈しています。こうした著作権侵害のリスクは、企業の存続を揺るがしかねない重大な問題であり、ルールを厳格化して自衛する必要に迫られたのです。


規制圧力:世界標準ルールの登場
次に、EU(欧州連合)のAI法のような、包括的なAI規制の登場です。この法律は、AIの利用をリスクに応じて分類し、特にリスクの高いAI(例:個人の社会的スコアリング)には厳しい義務を課します。また、AIの学習に用いたデータの概要を開示する「透明性」も求めています。Stability AIの新しい禁止リストに「社会的スコアリング」などの項目が含まれているのは、このEU AI法に直接対応するための動きです。
商業的圧力:ビジネスとしての成長
そして、ビジネスとして成長するための要請です。大企業や決済代行会社と取引するには、「ブランドセーフティ」、つまり安全でクリーンなサービスであることが絶対条件になります。
「何でもあり」のイメージのままでは、大きなビジネスはできません。これらの複合的な圧力が、今回の規約変更の直接的な引き金となったのです。
注目ポイント📌
今回のルール変更は、単なる締め付けではありません。相次ぐ訴訟や世界の新しい規制に対応し、ビジネスとして成長していくために、Stability AI社が企業として責任を果たすための、これは必然的な変化なのです。
新ルールの核心:公式が定める「6つの禁止カテゴリー」を徹底チェック

では、具体的に私たちの創作活動にどう影響するのでしょうか。Stability AIの公式AUP(Acceptable Use Policy、つまり「やってはいけないことリスト」)で定められている、「6つの禁止カテゴリー」を、詳細な具体例と共に一つずつ見ていきましょう。
1. 法律・他者の権利の侵害

これが最も範囲が広く、重要なカテゴリーです。AIを使って、既存の法律や他人の権利を侵害する行為全般を禁止しています。クリエイターとして特に注意すべきなのは、以下の点です。
- 知的財産権とプライバシー権の侵害:当然ですが、他人の著作物や商標、プライバシーを侵害する目的での利用は禁止です。
- 脆弱性の悪用:年齢や障がい、経済状況といった、人の弱みにつけこむようなコンテンツの作成。
- 社会的スコアリング:個人の行動や特性から、その人を点数付けしたり、格付けしたりする行為。
- 同意なき顔認証データベースの作成:本人の許可なく、顔写真を集めて個人を特定するためのデータベースを作ること。
- 職場や教育現場での感情分析:医療や安全上の理由を除き、職場などでAIを使って人の感情を推測し、評価などに使うこと。
- 専門家のレビューなき高リスクな助言:医師や弁護士などの専門家によるレビュー(監修)なしに、医療、法律、金融に関するアドバイスを生成し、提供すること。
2. 子供への危害・搾取
児童ポルノや性的搾取(CSAM)はもちろんのこと、子供を性的に誘ったり、グルーミング(手懐け)、人身売買を助長したりするコンテンツは、最も厳しく禁止されています。また、直接的でなくても、子供を性的に暗示するような描写も禁止対象です。Stability AIは、これらのコンテンツを発見した場合、当局へ通報するとしています。
3. 性的に露骨なコンテンツ
以前の規約から最も厳格化された点です。合意の有無や芸術性を問わず、性的な行為やそれに関連するコンテンツの生成が全面的に禁止されます。これには、実際の人物の同意なく作成されたわいせつ画像(NCII)や、違法なポルノコンテンツ、性暴力に関連する内容も含まれます。
4. 他者・自己への心身の危害
このカテゴリーも非常に広範囲です。単なる悪口にとどまらず、心や身体を傷つける可能性のある、あらゆるコンテンツが対象となります。
- ヘイトスピーチ:人種、宗教、性別、性的指向などを理由に、特定のグループを差別したり、暴力を煽ったりするコンテンツ。
- 自己または他者への危害の助長:自傷行為や他者への暴力を奨励したり、その方法を示したりするコンテンツ。
- 過激なゴア表現:身体の破壊、切断、拷問、動物虐待など、極端に残酷な描写。
- 違法な武器の開発:兵器の開発や製造に繋がるような利用。
- テロやヘイト団体への支援:テロリストやヘイトグループに関連する個人や組織を支援するコンテンツ。
5. 安全対策の回避
AIに搭載されている安全機能や制限を、意図的に突破しようとする行為そのものが禁止されます。これには、いわゆる「ジェイルブレイク」と呼ばれるプロンプトの工夫だけでなく、アカウントが停止された後に別のアカウントを作成するような行為、ウイルスや悪意のあるコードの作成も含まれます。
6. 他者を欺く・誤解させる行為
AIを使って、他者をだましたり、誤解させたりする行為も広く禁止されています。
- 偽情報・デマ:意図的に誤った情報を拡散させること。
- なりすまし:本人の許可なく、あるいは法的な権利なく、他人のふりをする行為。中傷的なコンテンツも含まれます。
- AIであることの不開示:AIが生成したアウトプットを、人間が作ったものであるかのように偽って公開したり、相手がAIと対話していることが明かでない場面で、その事実を隠したりする行為。
- 民主的・司法的プロセスの妨害:選挙への参加を妨げるようなコンテンツなど。
注意事項📌
新しいルールでは、アダルト表現が全面的に禁止され、プライバシー侵害やデマの作成も厳しく制限されます。さらに、AIの安全機能を突破しようとする「裏技」的な行為そのものも禁止リストに追加されたことを、しっかり覚えておきましょう。
クリエイター必見!今日からできる「3つの対策」
新しいルールができて、「なんだか窮屈だな」と感じるかもしれません。しかし、正しく理解して備えれば、何も怖がることはありません。ここでは、私たちクリエイターが今日からできる具体的な「3つの対策」をご紹介します。
対策1:ルールを正しく「知る」

何よりもまず、敵を知り、己を知ること。これが基本です。
深掘り①:契約の「階層構造」を理解する
私たちが同意しているルールは、実は一枚岩ではありません。
①サイト全体の利用規約(Terms of Use)、②やってはいけないことリスト(AUP)、③各モデルのライセンスなどが、階層のように重なり合っています。例えば、モデルのライセンスが寛容でも、それをAPI(Platform Terms of Service)で使えば、APIの厳しいルールが優先されます。この構造を理解することが、リスク管理の第一歩です。
深掘り②:知らないうちに放棄している「権利」
多くのサービス規約には、ユーザーにとって不利な条項が静かに盛り込まれています。Stability AIの利用規約も例外ではなく、実際に「義務的仲裁」条項と「集団訴訟の権利放棄」条項が含まれています。
これは、万が一Stability AI社とトラブルになった際、私たちが公開された裁判所で裁判官や陪審員によって裁かれる権利や、他の多くのユーザーと団結して会社を訴える(集団訴訟)権利を、あらかじめ手放すことに同意する、ということを意味します。紛争の解決は、原則として非公開の「仲裁」という手続きで行われることになります。これは、企業側が訴訟コストを抑え、問題を公にしたくない場合に広く使われる手法ですが、個々のユーザーにとっては、声を上げるハードルが格段に高くなるという、非常に重要なリスクです。
対策2:賢く「使い分ける」
これからのクリエイターには、道具を賢く使い分ける視点が重要になります。
深掘り①:「ガバナンスの壁」を乗りこなす
なぜ古いモデルは旧ルールで使えるのか?それはオープンソースライセンスの多くが「取消不能(irrevocable)」だからです。これは「一度あげたプレゼントを、後から『やっぱり返して』とは言えない」のと同じ原則です。
この結果、AIモデルの世代によって適用されるルールが違う「ガバナンスの壁」が生まれます。
- 最新・最高の画質を求めるなら:新しいモデルと、それに伴う新しい厳しいルールを受け入れる。
- より自由な表現を追求するなら:あえて古いモデルを、自己責任の範囲でローカル環境で使い続ける。
この戦略的な使い分けが、これからのクリエイターの腕の見せ所になります。
対策3:積極的に「自衛する」
自分の作品と権利を守るために、自分から行動することも大切です。
深掘り①:「オプトアウト」は権利である
何もしないと、あなたのプロンプトや生成した画像がAIの学習データに使われてしまう可能性があります。これは、Stability AIがサービスを改善するためのデータ収集ですが、私たちにとっては貴重なノウハウやプライバシーの流出に繋がりかねません。各サービス(DreamStudio、Stable App、Stable Chatなど)の設定画面から、データ提供を拒否する「オプトアウト」を必ず行いましょう。これは、私たちに与えられた正当な権利です。
深掘り②:自衛ツールの知識を持つ
あなたが描いたオリジナルのイラストなどが、AIに無断で学習されるのを防ぎたいと考えるなら、「Glaze」や「Nightshade」といった自衛ツールがあることも、知識として知っておくと良いでしょう。
AIによる画像の改変を防いだり、AIに誤った学習をさせたりするこれらのツールは、クリエイターの自己防衛手段として注目されています。
注目ポイント📌
まずは契約の階層構造やリスクを「知り」、次にライセンスの特性を理解して賢く「使い分ける」。そして最後に、オプトアウト設定などで積極的に「自衛する」。この3つのステップを意識するだけで、新しい時代を安心して乗りこなせます。
【補足情報】お金と権利の重要ポイント

対策とは別に、クリエイターの生活に直結する「お金」と「権利」についても、重要なポイントを最後におさらいしておきましょう。
お金の話:ほとんどのクリエイターは、これからも無料で使える!
新しいライセンスでは、年間の売り上げ(総収益)が100万米ドル(約1.5億円)未満の個人や中小企業は、作った画像をお金儲けに使うこと(商用利用)も含めて、これまで通り無料で利用できます。これは、私たち個人クリエイターにとっては非常にありがたいルールです。
権利の話:画像の所有権はあなた。ただし「条件付き」
あなたがStable Diffusionを使って生成した画像の所有権は、基本的にはあなた自身のものになります。ただし、これには「ルールブックを全て守っている場合に限る」という、非常に重要な条件が付いています。もしルール違反の画像を作ってしまうと、その画像の権利の根拠が揺らぎ、商用利用が困難になるという致命的なリスクがあることは、絶対に忘れないでください。
ワンポイントアドバイス📌
年間売上が約1.5億円未満なら商用利用も無料!これは大きなメリットですが、画像の権利は「ルールを守ること」が絶対条件です。この2点をしっかり押さえておけば、金銭的なトラブルや権利の問題を避けられます。
新しい、より「安定的」になったAIとの付き合い方へ
さて、ここまでStable Diffusionの新しいルールについて、「6つのNG」と「3つの対策」を軸に、その背景にある法的な問題や技術的な原則まで、かなり深く掘り下げてきました。
今回のルール変更は、Stable Diffusionという技術が、熱狂的な「お祭り」の段階から、社会のインフラとして根付いていくための、より「安定的」で「責任ある」段階へと移行したことを示す、大きな節目だと言えます。
一部のクリエイターにとっては、かつての自由さが失われ、窮屈に感じるかもしれません。しかし、別の視点から見ると、ルールがハッキリしたことで、特にビジネスで利用する人たちは、法的なリスクを予測しやすくなり、より安心して技術に投資し、製品開発を進めることができるようになります。この「安心感」や「安定性」こそが、新しいルールがもたらす最大の価値の一つなのかもしれません。
面倒に感じるかもしれませんが、この変化を正しく理解し、賢く付き合っていくこと。それこそが、AIとの無用なトラブルを避け、私たちが本来集中すべき、よりクリエイティブで、楽しい創作活動に時間とエネルギーを注ぎ込むための、最も確実な方法なのです。
免責事項・注意事項
この記事は、2025年7月時点での公開情報や分析レポートを元に、私個人の見解を交えて解説したものです。法的な助言を提供するものではなく、特定の個人や団体を代表するものでもありません。ライセンスや規約に関する最終的な判断は、必ずご自身でStability AI社の公式ドキュメント原文をご確認いただくか、専門家にご相談ください。また、利用規約やライセンスの内容は、将来的に変更される可能性があるため、常に最新の情報をご確認ください。
参考ソース
- Acceptable Use Policy (公式原文)
- この記事で解説している、2025年7月31日発効のStability AIの新しい利用規約(やってはいけないことリスト)の公式原文です。全ての情報の根拠となる最も重要なページです。
- Website Terms of Use
- Stability AIのウェブサイト全体の利用に関する規約です。サイトのコンテンツの利用、禁止事項、知的財産権など、基本的なルールが記載されています。
- Stable App Terms of Service
- 「Stable App」という具体的なアプリケーションを利用する際のサービス利用規約です。アプリの機能利用、ユーザーの責任などが定められています。
- Stable Chat Terms of Service
- 対話AIサービス「Stable Chat」の利用規約です。チャット機能の利用、禁止されている使い方、生成されたテキストの扱いなどが記載されています。
- Terms of Service – Stability AI Platform
- 開発者向けの「Stability AI Platform」の利用規約です。APIを通じてStability AIのモデルを利用する際の権利や義務、技術的な要件などが定められています。
- The Legal Implications of Stable Diffusion in 2025
- ITコンサルティング会社のブログ記事で、2025年におけるStable Diffusionの法的な影響について解説しています。ビジネス利用の観点からのリスクや注意点が中心です。
- Getty Images v Stability AI: what does it mean for IP law?
- 欧州の知的財産専門の法律事務所によるニュース記事。有名なストックフォトサービスGetty ImagesがStability AIを提訴した件について、知的財産法(IP法)にどのような影響を与えるかを解説しています。
- Getty v Stability AI – a paradigm shift for generative AI?
- 国際的な法律事務所による分析記事。上記と同じくGetty Images対Stability AIの訴訟を取り上げ、この一件が生成AIの法的枠組みを大きく変える可能性を論じています。
- Digital Image Creation Using AI Risks Copyright Infringement
- 大手金融・経済ニュースであるブルームバーグの法律専門メディアの記事。AIを使ったデジタル画像生成が、著作権侵害のリスクをどのように伴うかを解説しています。

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