世界中で人気の話題の配色ツール「Coolors」はなぜ”神”と呼ばれるのか?徹底分析します。

配色ツールCoolorsの画面。カラーパレットが自動生成

約10900文字 / 読了目安:約23分

今回は配色ツール「Coolors.co」を深く掘り下げていきたいと思います。

なぜ、配色ツールなのか?それはCoolorsが単なる「時短ツール」に留まらず、AI時代においてクリエイターが自身の「感性」と「時間」を再定義し、より本質的な創造活動に回帰するための、極めて戦略的なツールとなり得るからです。退屈な作業はテクノロジーに委ね、人間はどこに集中すべきか。そのヒントが、この美しいツールには詰まっています。

この記事では、Coolorsの表面的な機能紹介に終始しません。その背景にある思想、開発者の哲学、他のツールとの比較、そしてAI時代のクリエイティビティにおけるその役割まで、徹底的に考察していきます。少し長くなりますが、お付き合いいただければ幸いです。

目次

配色ツール「Coolors」とは?- 創造の初速を最大化するパートナー

CoolorsのExplore機能でトレンドの配色パレット
なぜCoolorsは”神”と呼ばれるのか?その答えがここにある。

Coolors 公式サイト

まず、Coolorsを知らない方のために基本から。Coolorsは、直感的かつ爆速で高品質なカラーパレットを生成できる、世界中で絶大な人気を誇るWebサービスです。

多くのクリエイターが最初に魅了されるのは、キーボードのスペースキーを押すたびに、洗練された配色案が次々と画面に現れる、あの魔法のような体験でしょう。まるでスロットマシンのように、インスピレーションが溢れ出してくる感覚。この「偶然の幸運な出会い(セレンディピティ)」を意図的に誘発する仕組みが、Coolorsの核心的な価値の一つです。

しかし、Coolorsの本質はそれだけではありません。このツールの背後には、一人の開発者の確固たる哲学が存在します。

Coolorsを支える哲学と開発者 – Fabrizio Bianchiの世界観

Coolorsは、イタリア人のデザイナー兼開発者であるFabrizio Bianchi(ファブリツィオ・ビアンキ)氏によって、2014年に個人プロジェクトとして生み出されました。彼自身がデザイン作業の中で感じていた「配色選びの煩わしさ」を解決するために開発したのが始まりです。

彼のポートフォリオやインタビューを紐解くと見えてくるのは、「美しく、シンプルで、高速であること」への強いこだわりです。彼は、複雑な機能を詰め込むのではなく、クリエイターが思考を中断させずに、フロー状態で作業を続けられるような体験を重視しています。

Coolorsの運営は、巨大なソフトウェア企業ではなく、Bianchi氏が設立した小規模な会社によって行われています。この事実は、ツールの方向性にも大きく影響していると私は考えています。大企業がトップダウンで機能を決定するのではなく、開発者自身がユーザーであり続けることで、現場のクリエイターが本当に必要とする機能が、絶妙なバランスで実装され続けているのです。

彼の成功は、単に優れたツールを作ったこと以上に、個人の情熱と課題解決への意欲が、世界中のクリエイターから共感を得て、一つの大きなエコシステムを形成したという、現代のインディー開発者にとっての希望の星でもあります。Coolorsを使うとき、私たちは単なるソフトウェアを利用しているのではなく、一人のクリエイターの思想と情熱に触れているのかもしれません。

注目ポイント📌
👨‍💻 一人の開発者の情熱から始まったインディープロジェクトであること
✨ 「美しく、シンプルで、高速」という一貫した哲学が体験の根底にある
💡 ツールの背景を知ることで、より深いレベルでその価値を理解できる

Coolorsの核心機能 – 直感的操作からプロの要求まで

配色ツールCoolorsを使って、WebサイトのUIデザインに色を適用
Coolorsなら、初心者でもプロ級の配色が即完成

では、具体的にCoolorsが持つ機能を、その思想と絡めながら深掘りしていきましょう。機能は多岐にわたりますが、ここでは大きく3つのカテゴリーに分けて解説します。

基本にして最強:高速パレットジェネレーター

Coolorsの代名詞とも言える機能です。スペースキーを押すだけで、AIが機械学習に基づいたアルゴリズムで、調和のとれた5色のパレットを瞬時に生成します。

  • ロック機能: 気に入った色が見つかれば、その色を「ロック」(固定)できます。その状態で再びスペースキーを押すと、ロックした色を基点として、それに合う他の色だけが再生成されます。これは、メインカラーは決まっているが、アクセントカラーに悩んでいる…といった具体的なシチュエーションで絶大な効果を発揮します。
  • ドラッグ&ドロップでの並べ替え: 生成された色の順番は、デザイン上の意味を持ちます。メインカラー、サブカラー、アクセントカラーといった役割を考えながら、ドラッグ&ドロップで直感的に入れ替えられるのは、地味ながら非常に重要な機能です。
  • 詳細なカラー値調整: 生成された色をそのまま使うだけでなく、もちろん微調整も可能です。HEXRGBCMYKHSLLABなど、多彩なカラーコードに対応。さらに、各色の「Shades(濃淡)」を一覧で表示し、より繊細なグラデーションやバリエーションを作成することもできます。

このジェネレーターは、単なるランダムな色の組み合わせではありません。膨大な数の美しい配色パターンを学習したAIが、色彩理論やトレンドを考慮した上で「心地よい」と感じる組み合わせを提案してくれます。私たちクリエイターは、AIが提案した無数の選択肢の中から、プロジェクトの文脈に最も合うものを「選び取り、磨き上げる」という、より高度な判断に集中できるのです。

インスピレーションの源泉:ExploreとImage Picker

ゼロから色を生み出すだけでなく、既存のイメージからインスピレーションを得るための機能も極めて強力です。

  • Explore(探索): 世界中のユーザーが作成し、公開している数百万もの配色パレットを閲覧できるライブラリです。これはもはや、配色のためのPinterestと言っても過言ではありません。「人気順(Popular)」「最新順(Latest)」「ピックアップ(Picks)」といったソートが可能で、キーワード(例: “Nature”, “Retro”, “Pastel”)で検索することもできます。デザインに行き詰まった時、このExploreページをただ眺めているだけで、新たなアイデアの扉が開かれることが何度もありました。
  • Image Picker(画像から抽出): あなたの好きな写真やアートワークをアップロードすると、AIがその画像の色構成を解析し、キーとなる色を抽出してパレットを作成してくれます。これは単なるスポイトツールとは全く異なります。スポイトが「点の情報」を拾うのに対し、Image Pickerは画像全体の色面積や彩度、輝度のバランスを考慮し、「面の情報」から最適なパレットを提案してくれるのです。クライアントから提供されたブランドイメージ写真や、作りたい世界の参考画像から、一貫性のある配色を導き出す際に不可欠な機能です。

プロフェッショナル基準のデザインへ:アクセシビリティとプレビュー機能

Coolorsが単なる「お絵描きツール」ではなく、「プロの仕事道具」であることの証明が、これらの高度な機能群です。

  • Palette Visualizer: この機能は無料で使えてかなり実用的です。私も愛用しています。作成したパレットを、Webサイトのモックアップ、イラスト、インフォグラフィックなどに適用したプレビューをリアルタイムで確認できます。色が実際に使われた時の印象を掴むのに役立ち、クライアントへのプレゼンテーション資料としても活用できます。
    Pro限定の機能:SVGファイルをアップロードして、プレビュー確認できる機能が開放されます。
  • Contrast Checker(コントラスト比チェッカー): Webサイトやアプリをデザインする上で、今やアクセシビリティへの配慮は倫理的にも法的にも必須となっています。
    Pro限定の機能:背景色と文字色の組み合わせが、W3C(World Wide Web Consortium)が定める国際基準WCAG (Web Content Accessibility Guidelines)のコントラスト比を満たしているかを瞬時に判定してくれます。
    • AAレベル: 最低限達成すべき基準。多くの公的機関や企業サイトで採用されています。
    • AAAレベル: より厳格な基準。高齢者や視覚に障がいを持つユーザーが利用するサービスなどで推奨されます。
      この機能を使えば、開発者にデザインを渡す前に、デザイナー側でアクセシビリティを担保でき、手戻りを大幅に削減できます。
  • Image Picker(画像から抽出): この機能は無料で使えます。あなたの好きな写真やアートワークをアップロードすると、AIがその画像の色構成を解析し、キーとなる色を抽出してパレットを作成してくれます。
    UIに表示される「Picked palettes」のスライダーを動かしてみてください。スライダーを左右に動かすたびに、AIが画像内の異なる箇所から色を再抽出し、次々と新しい配色パターンを提案してくれます。
  • Color Blindness Simulator(色覚シミュレーター): この機能は無料で使えます。日本人男性の約20人に1人、女性の約500人に1人は、何らかの色覚特性を持つと言われています。このシミュレーターは、作成したパレットが、様々なタイプの色覚(1型2色覚、2型2色覚など)を持つ人々にどのように見えるかをシミュレーションしてくれます。これにより、色が重要な情報(例:グラフ、アラート表示)を伝える際に、特定のユーザーが情報を受け取れないといった事態を防ぐ、インクルーシブなデザイン(CUD – カラーユニバーサルデザイン)の実践が可能になります。

ワンポイントアドバイス📌
♿ アクセシビリティ対応は「特別なこと」ではなく、現代のプロデザイナーの「標準スキル」です。Coolorsは、その実践を強力にサポートしてくれます。
🖼️ Image Pickerを使う際は、最終的に作りたいイメージに最も近い雰囲気の写真を選ぶのがコツ。AIの精度がさらに高まります。
🌍 Explore機能で海外のクリエイターの配色を見ることは、自分の感性の殻を破る素晴らしいトレーニングになります。

ワークフローを変革するエコシステム

 Coolorsのロゴと、FigmaやAdobeなど連携可能なツール
Web、アプリ、Figma…全てを繋ぐCoolorsのエコシステム。

Coolorsの真の力は、そのエコシステムの広がりにあります。デザイン作業は単一のツールで完結することは稀です。Coolorsは、クリエイターが日常的に使うツールと深く連携することで、ワークフローの分断を防ぎ、思考の集中を維持させてくれます。

デザインツールとのシームレスな連携 (Adobe CC / Figma)

これが、私がCoolorsを手放せない最大の理由かもしれません。

  • Adobe Creative Cloud プラグイン: Photoshop、Illustrator、InDesign、After Effects内でCoolorsのパネルを直接開くことができます。つまり、Illustratorでロゴをデザインしながら、隣のCoolorsパネルで色を生成・調整し、ワンクリックでスウォッチに登録する、といった作業が可能です。わざわざブラウザとAdobeアプリを行き来する必要がなくなるだけで、作業効率は劇的に向上します。
  • Figma プラグイン: 現代のUI/UXデザインに欠かせないFigmaとの連携も完璧です。Figma上でデザインシステムを構築する際、Coolorsで作成・管理しているカラーパレットをプラグイン経由で直接同期できます。これにより、デザインの一貫性を保ち、チームでの共同作業を円滑に進めることができます。

これらのプラグインは、Coolorsを単なる「外部ツール」から、愛用するデザインソフトの「内蔵機能」へと昇華させてくれます。この体験は、一度味わうと元には戻れません。

いつでもどこでも:スマートフォンアプリ

創造のひらめきは、デスクの前だけで訪れるわけではありません。

スマホアプリ (iOS/Android): 外出先で出会った美しい風景、カフェの素敵な内装、美術館で見た絵画…。そんな瞬間にスマホを取り出し、カメラで撮影してImage Pickerで色を抽出すれば、その感動をカラーパレットとして保存できます。次のプロジェクトの種になるかもしれません。

このように、CoolorsはPCの前だけでなく、クリエイターの生活のあらゆる場面に寄り添い、インスピレーションを収集・管理するための強力な基盤となるのです。

注目ポイント📌
🚶‍♂️ スマホアプリは、日常のあらゆる風景をインスピレーションの源泉に変える魔法のアイテム。

【徹底比較】他の配色ツールとの思想の違い

Coolorsのユニークな立ち位置を理解するために、他の主要な配色ツールと比較し、それぞれの「思想」の違いを明らかにしてみましょう。どのツールが優れているか、ではなく、あなたの目的や思考のスタイルに合うのはどれか、という視点で見ることが重要です。

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ツール名中心的な思想得意なことこんな人におすすめ
Coolorsスピード&セレンディピティ偶然性から始まる高速なアイデア出し、多機能な調整、エコシステム連携とにかく早く多くの選択肢が見たい、偶然の出会いを楽しみたい、Figma/Adobe連携を重視する人
Adobe Color色彩理論と調和補色、類似色など色彩理論に基づいた厳密な配色作成、Adobe製品との完全同期色彩理論をきっちり学びたい、Adobe CC中心のワークフローで、理論に基づいた配色をしたい人
Color Hunt人間によるキュレーション厳選されたトレンド感のある4色パレットを「見つける」ことインスピレーションだけが欲しい、質の高い作例から選びたい、多機能は不要な人
Paletton単色からの理論展開1つのベースカラーからモノクロ、トライアドなど理論的なバリエーションを緻密に生成軸となる1色が明確に決まっており、そこから理論的に配色を展開したい人
HuemintAIによる文脈理解「Branding」「Website」など用途を指定するとAIが文脈に合った配色をプレビュー付きで提案具体的な用途に合わせた配色が見たい、AIによる提案の精度を試したい人
KhromaAIによるパーソナライズ最初に好きな色を50色選ぶと、それを学習したAIが自分好みの配色だけを無限に生成自分の「好き」を軸に配色を探したい、AIに自分だけの配色アシスタントを育ててほしい人

このように比較すると、Coolorsの立ち位置がより明確になります。Adobe ColorやPalettonが「理論的・演繹的」アプローチであるのに対し、Coolorsは「直感的・帰納的」アプローチの代表格です。
また、HuemintやKhromaのような新しいAI特化型ツールが「文脈理解」や「パーソナライズ」を追求する中で、Coolorsは普遍的な使いやすさと、プロの現場で求められる網羅的な機能のバランスにおいて、今なお独自の強みを発揮しています。

投資価値はあるか?無料版とPro版の比較

配色ツールCoolorsで作成したモダンなカラーパレット。
無料で使える最強の配色ツール「Coolors」が生み出す無限の可能性。

Coolorsは無料でも十分に強力ですが、プロとして活動するならPro版への投資を検討する価値は十分にあります。その判断のために、機能差だけでなく「投資対効果(ROI)」の観点から考察してみましょう。

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機能Free(無料版)Pro(有料版)投資価値
料金無料年間プラン: $3/月
(年一括払い)
月額$3は、コーヒー1杯程度の価格です。
広告ありなしCoolorsで表示される広告は気にならない印象。
パレットの色数最大 5色最大 10色ほとんどのクリエイターは5色でも十分。
お気に入り配色の保存10ブックマーク無制限お気に入り配色をCoolorsで管理するなら不足。
高度なコントラストチェッカー基本機能のみWCAG準拠の詳細判定プロとしてアクセシビリティ対応を謳うなら必須。信頼性の担保。
カラーライブラリ連携Pantone, CopicなどPantoneカラーとの連携は、デザイナーにとって有用。
高度なエクスポート基本的な形式のみSCSS, PDFへのロゴ追加などSCSS変数でのエクスポートは開発効率を上げます。

仮にあなたの時給が2000円だとします。月額$3(約450円)のPro版を導入することで、月にたった13分の時間短縮ができれば、元が取れる計算になります。プラグイン連携によるアプリの切り替え時間削減、保存数制限を気にしなくて済むストレス軽減などを考えれば、この時間は容易に捻出できるはずです。

無料版はCoolorsの哲学に触れるための最高の体験版です。そして、その哲学に共感し、自分のワークフローに不可欠だと感じた時、Pro版への投資はあなたの創造性を加速させる、極めて合理的な自己投資となるでしょう。

【実践シナリオ】クリエイター別・Coolors活用術

ここでは、より具体的に、様々なクリエイターがCoolorsをどのように活用できるか、実践的なシナリオ形式でご紹介します。

シナリオ1:スタートアップのWebサイトとロゴを制作するUI/UXデザイナー

  1. 【フェーズ1:インスピレーション】: クライアントから事業内容や理念、ターゲットユーザーをヒアリング。「先進的」「信頼感」「親しみやすさ」といったキーワードを得る。キーワードを元に「Explore」を検索し、方向性の異なる配色パターンを10個ほどブックマークする。
  2. 【フェーズ2:方向性のすり合わせ】: ブックマークしたパレットを元に、スペースキーでバリエーションを生成。ロック機能を使いながら、メインカラー候補を3つに絞る。それぞれのパレットを「Visualizer」で簡単なモックに適用し、クライアントに提示。初期段階でビジュアルイメージを共有し、認識のズレを防ぐ。
  3. 【フェーズ3:デザインシステムの構築】: 方向性が固まったら、Figmaプラグインを起動。決定したパレット(Pro版なら10色まで)をFigmaのカラースタイルにワンクリックで同期。さらに「Shades」機能で各色の濃淡バリエーションを生成し、インタラクティブな要素(ホバー、アクティブ、無効状態など)の色も定義する。
  4. 【フェーズ4:アクセシビリティの確保】: デザインを進めながら、「Contrast Checker」を常に確認。テキスト、ボタン、背景の組み合わせがWCAGのAA基準を満たしているかをチェックし、開発者に渡す前にアクセシビリティを担保する。
  5. 【フェーズ5:納品】: 最終的なカラーパレットをPro版のPDFエクスポート機能で出力。クライアントのロゴを追加し、プロフェッショナルなブランドカラーガイドラインとして納品物の一部とする。

シナリオ2:ファンタジー小説の表紙を描くイラストレーター

  1. 【世界観の構築】: 小説のテーマ「黄昏時の魔法図書館」に合う参考写真(夕焼けの空、古い図書館の写真など)を数枚集める。「Image Picker」でそれぞれの写真からキーカラーを抽出し、複数のパレットを作成。
  2. 【キャラクターデザイン】: 主人公(好奇心旺盛な魔術師見習い)には暖色系のオレンジや黄色を、ライバル(冷静沈着なエリート魔術師)には寒色系の青や紫を基調としたパレットをジェネレーターで作成。「コレクション」機能でキャラクターごとにパレットを管理する。
  3. 【構図と配色】: ラフスケッチが完成したら、Photoshopのプラグインを起動。背景、キャラクター、魔法のエフェクトなど、各要素に作成したパレットの色を当てはめながら、全体の色のバランスを調整していく。背景とキャラクターのコントラストが弱ければ、片方の色の彩度や輝度をCoolors上で微調整し、即座にPhotoshopに反映させる。
  4. 【仕上げ】: 全体の調和を見ながら、特定の色が浮いていると感じたら、その色だけをロック解除して再生成。思いがけないアクセントカラーの提案が、作品に深みを与えることがある。

シナリオ3:デザインシステムを実装するフロントエンド開発者

  1. 【初期設定】: デザイナーからFigmaのデータとCoolorsのパレット共有リンクを受け取る。
  2. 【変数化】: Coolorsの「Export」機能を選択し、「SCSS」形式でエクスポート。$primary: #XXXXXX; のようなカラー変数が記述されたファイルをコピーし、プロジェクトのスタイルシート設定ファイルに貼り付ける。これにより、手作業での色コードの転記ミスを防ぎ、効率的かつ正確にコーディングを開始できる。
  3. 【コンポーネント実装】: デザイナーが定義したボタンの各状態(hover, activeなど)の色を、Coolorsの「Shades」ビューで確認しながら、CSSの疑似クラスに適用していく。
  4. 【Tailwind CSSユーザーの場合】: エクスポート形式で「Tailwind CSS」を選択。tailwind.config.jstheme.colorsに直接貼り付けられる形式のコードが生成されるため、設定は一瞬で完了。bg-primarytext-accentのようなクラス名で、デザインシステムに準拠した開発を高速に進める。

【考察】AI時代のクリエイターとCoolorsの未来

最後に、この記事の核心でもある、AI時代のクリエイティビティという文脈でCoolorsが持つ意味と、私たちが向き合うべき課題について考察します。

効率化の先にある「審美眼」の重要性

CoolorsやAIツールが配色のような作業を効率化してくれる未来において、クリエイターの価値はどこにあるのでしょうか。私は、それは「審美眼」と「文脈判断力」にあると考えています。

ツールは無数の美しい選択肢を提案してくれます。しかし、その中から「なぜこの配色なのか?」を言語化し、プロジェクトの目的、ターゲットの感情、ブランドの物語に合致する最適解を選び取るのは、人間の役割です。

AIが生成したパレットを見て、「この青は少し軽すぎる。ブランドの信頼感を出すには、もう少し深みのあるネイビー寄りに調整すべきだ」と判断する。その微細な感覚こそが、プロフェッショナルなクリエイターの価値となります。つまり、ツールを使いこなすことで、私たちは「色を作るスキル」から「色を評価し、編集するスキル」へと、能力の軸足をシフトさせていく必要があるのです。

ツールによる「思考の均質化」リスクとどう向き合うか

一方で、Coolorsのような優れたツールが普及することによるリスクも認識しておく必要があります。
それは「思考の均質化」です。

誰もが同じツールで、同じようなアルゴリズムによって「美しい」とされる配色にアクセスしやすくなることで、無意識のうちに世の中のデザインが似通ってきてしまう可能性があります。Coolorsの「Explore」で人気のあるパステルカラーのパレットが、様々なWebサイトで安易に再生産されてしまう、といった事態です。

このリスクに対抗するために、私たちはツールを「答え」としてではなく、あくまで「思考の出発点」として捉えるべきです。

  • 生成されたパレットをそのまま使わず、必ず1〜2色は自分の感性で微調整する。
  • Image Pickerで、誰もが使いそうな美しい写真ではなく、敢えて自分の身の回りにある、ざらついた質感のモノや、何気ない日常の風景から色を抽出してみる。
  • 敢えてセオリーから外れた色を一つ混ぜてみて、そこから生まれる違和感や新しい調和を探求する。

ツールに思考を委ねるのではなく、ツールとの対話を通じて自分の感性を拡張していく。その意識的な姿勢が、均質化の波に飲まれずに、独自の表現を続けるために不可欠です。

配色と著作権・倫理 – 私たちはどう使うべきか

最後に、著作権や倫理の観点にも触れておきましょう。
一般的に、配色(色の組み合わせ)自体には著作権は発生しないとされています。したがって、Coolorsで生成したパレットを商用利用することに法的な問題はありません。

しかし、倫理的な配慮は必要です。「Explore」で公開されている他のクリエイターのパレットをそのまま流用し、自分の作品として発表するのは、法的には問題なくても、クリエイターとしてのモラルに反する可能性があります。
インスピレーションを得るのは素晴らしいことですが、必ず自分なりの解釈やアレンジを加えるべきです。

これは、AI生成モデルの学習データに関する議論とも通じるところがあります。テクノロジーがもたらす恩恵を享受しつつも、その源泉にある人間の創造性へのリスペクトを忘れない。そのバランス感覚こそが、AIと共存する未来のクリエイターに求められる倫理観なのだと、私は考えます。

ツールは、思考を代替するものではなく、思考を深化させるための対話相手である

Coolorsは、単なる便利な配色ツールではありません。それは、AI時代のクリエイターにとって、自らの働き方と創造性の在り方を再考させてくれる、重要な示唆に富んだ「対話相手」です。

面倒で時間のかかる作業をテクノロジーに委ねることで、私たちは貴重な「時間」と「集中力」を取り戻すことができます。そして、その空いたリソースを、コンセプトの策定、物語の構築、ユーザーへの深い共感といった、人間にしかできない、より本質的で創造的な領域に注ぎ込むべきなのです。

Coolorsが提案する無数の美しい配色を前に、私たちは自らの「審美眼」を試されます。ツールが生み出す偶然性を楽しみながらも、決してそれに依存しない。思考の均質化という罠を避け、自分だけの表現を追求する。

AIをはじめとするテクノロジーの進化は、クリエイターから仕事を奪うものではなく、私たちを退屈な作業から解放し、より高次の創造へと誘うための触媒なのだと信じています。Coolorsとの付き合い方は、その未来に向けた素晴らしいリハーサルになるはずです。

まずはブラウザでCoolorsを開いて、スペースキーを押してみてください。そこから始まる対話が、あなたのクリエイティブを新しいステージへと導いてくれるかもしれません。

Coolorsのスペースキーを連打する感覚、本当にクセになりますよね!
皆さんはCoolorsを使っていますか?もし使っていたら、この機能が一番好き!」「こんな時に役立った!というお気に入りのポイントを、ぜひコメントで教えてください。

参考リンク集

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この記事を書いた人

元デザイン会社のディレクターです。クリエイティブ現場で役立つ効率化のコツ、便利なサービス、海外デザイン素材を紹介。AI時代のクリエイターの新しい働き方を深く掘り下げていきます。

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