Elgato Stream Deck Moduleとは?従来のモデルとの違いからDIYの可能性まで、クリエイター目線で徹底解説

Elgato Stream Deck Moduleと従来モデルの5つの決定的違いを解説するアイキャッチ画像。

約12700文字 / 読了目安:約33分

私たちのデスクの上で、複雑なショートカットや面倒な作業を指一本で片付けてくれる相棒、Elgatoの「Stream Deck」。一度この便利さを知ってしまうと、もう後戻りできない、まさに創作活動の相棒のような存在ですよね。

そんなStream Deckを使いながら、ふとこんなことを思ったことはありませんか?

「もし、この便利なStream Deckを、自分の好きな機材に埋め込んだり、自分だけのオリジナルコントローラーを作れたりしたら…最高じゃない?」

そんな、世界中のクリエイターやDIY好きが抱いていた夢を、Elgato自身が叶えてくれました。それが、今回ご紹介する「Stream Deck Module」です。

見た目はむき出しの基板とボタン。しかし、これは単なる「Stream Deckの中身だけ」という単純な話ではありません。この小さな部品は、私たちの創造性をこれまで以上に高める、とてつもない可能性を秘めています。

今回の記事では、この謎に包まれた「Stream Deck Module」が一体何者で、従来のモデルと何が決定的に違うのか。そして、どんな人のための製品なのかを、じっくりと解説していきたいと思います。

【要約】この記事のポイント💡
「Stream Deck Module」は、完成品の周辺機器ではなく、自作デバイスや業務用機材に組み込むための「部品」として提供される製品です。これにより、DIY愛好家からプロのシステム開発者まで、誰もがStream Deckの実績ある技術を自由に活用できるようになりました。これは、Elgatoが単なるデバイスメーカーから、あらゆる場所に自社の技術を浸透させる「土台」を提供する側へと進化しようとする、大きな戦略の表れと言えます。

この記事で分かること📖
🔧 製品の正体:「Stream Deck Module」が従来のモデルと根本的にどう違うのか
📐 全モデル比較:3つのモデルそれぞれの特徴と、どんな用途に向いているのか
🎯 誰のための製品?:DIY好きからプロまで、具体的なユーザー像と可能性
⚠️ 導入前の注意点:ソフトウェアの強みと、物理的な組み込みにおける現実的な課題

目次

そもそも「Stream Deck Module」って何?従来のモデルとの決定的な違い

Elgato公式サイトに掲載されたStream Deck Module(15キー)の製品画像。従来の完成品とは全く異なる「組み込み用部品」としての正体を示している。
これが全ての答え。公式サイトが「DIYコントロールパネル」と謳う通り、Moduleはケースもロゴもない「部品」。従来のStream Deckとの決定的な違いがこの1枚に凝縮されている。

まず、一番大切なことからお話しします。「Stream Deck Module」は、私たちがよく知る「Stream Deck MK.2」のような、箱から出してすぐに使える「完成品」ではありません。これは、筐体(ケース)もスタンドも、そしてお馴染みのElgatoのロゴすらもない、いわば”むき出しの心臓部”。Elgato自身が「組み込み対応キーパッド」と呼ぶ通り、何か別のものに組み込まれることを前提とした「部品」なのです。

これを車に例えてみましょう。
従来のStream Deckを買うのは、トヨタのお店で完成車の「カローラ」を買うようなものです。デザインも性能も完成されていて、買ったその日から誰でも快適に運転できます。

一方、Stream Deck Moduleを買うのは、トヨタから世界最高峰の「エンジンだけ」を買うようなものです。それ単体では走れませんが、自分の作ったボディに載せれば世界に一台だけのオリジナルカーが作れますし、船に積めばボートにも、発電機に繋げば電気を生み出すこともできます。つまり、何に使うか、どう活かすかは、すべて作り手である私たち次第というわけです。

面倒な基礎開発はElgatoに任せて、私たちは一番楽しい「アイデアを形にする」部分に集中できる。Elgatoが言う「車輪の再発明をせず、新しいものを生み出すことに集中できる」環境。これがModuleが提供してくれる、最大の価値なのです。

【Stream Deckを初めて知る方へ】
この記事では「Stream Deck Module」という少し特殊な製品に焦点を当てています。もし、Stream Deckという製品自体や、その基本的な使い方、クリエイター向けの具体的な活用術(自動化・設定術)について詳しく知りたい場合は、まず以下の総合ガイドをお読み下さい。

違い1:見た目と、そこに込められた想い

最も分かりやすい違いは、その姿です。Moduleには、デスクに置くための洗練されたケースや、角度を調整できるスタンドがありません。代わりに、頑丈なアルミ製の骨格に、コアとなる部品が収められています。これは、何かのパネルにネジ止めされたり、特注のケースに収められたりすることを待っている姿なのです。

そして、Elgatoのロゴがどこにも見当たらないのも大きな特徴です。これは意図的な「非ブランド」化であり、他のメーカーが自社製品にこのModuleを組み込む際に、ブランド同士が競合しないようにという配慮からです。あくまで主役はModuleを組み込んで作られた最終製品。Module自身は最高の脇役として、その性能を静かに発揮するのです。

違い2:誰に届けたいか?という目的の違い

従来のStream Deckは、私のような個人のクリエイターや配信者に向けて作られた製品(個人向け)でした。

しかしModuleが対象にしているのは、全く新しい3つの層です。

Stream Deck Moduleのターゲット層
  1. 私たちのようなDIY好きのクリエイター(メーカー)
  2. 新しいハードウェア製品を開発するスタートアップや起業家
  3. 放送業界や医療現場などで使われるプロ用機材を作る大企業(産業分野・OEM)

つまり、個人だけでなく、開発者や企業全体(企業や開発者向け)に届けようとしています。その証拠に、Moduleはたくさん買えば買うほど安くなる「ボリュームディスカウント」(最大15%以上)が用意されています。これはまさに、企業が製品の部品として仕入れることを想定しているからに他なりません。

Elgatoの目指す先:「Stream Deck Everywhere」

なぜElgatoは、こんなにも従来品と違う製品を出したのでしょうか。

実は、これまでにも世界中のDIY好きたちが、市販のStream Deckを自ら”分解”して、オリジナルのキーボードやフライトシミュレーターのコックピットに組み込む、ということをやってのけていました。Elgatoはこの熱狂的なコミュニティの存在と、そこから生まれる有機的な需要に気づいていたのです。

「こんなに手間をかけてまで、Stream Deckを使いたいと思ってくれる人たちがいる。ならば、もっと簡単に、もっと自由に使えるように、心臓部だけを公式に提供しようじゃないか」

この決断が、Module誕生のきっかけです。Elgatoは、このModuleを世に送り出すことで、「Stream Deck」という存在を、単なる”デスクの上の便利ガジェット”から、あらゆる場所、あらゆる機器に組み込まれる”制御システムの標準規格へと進化させようとしています。

配信スタジオのカメラ制御盤に、スマートホームの壁スイッチに、工場の生産ラインの操作パネルに…ありとあらゆる場所にStream Deckの技術が溶け込む未来。それが、彼らの掲げる「Stream Deck Everywhere」という計画の正体です。

注目ポイント📌
🏠 従来モデルは「完成品の家」:デザインも機能も完成済みで、買ってすぐに快適に住める。
🔩 Moduleは「最高級の建材」:柱、梁、壁材といった部品。これを使ってどんな家を建てるかはあなた次第。
🏢 目的が違う:個人ユーザーに「快適さ」を提供するのが従来モデル。開発者に「自由な創造の素材」を提供するのがModule。
🌍 壮大な計画:Moduleは、Stream Deckをあらゆる場所に浸透させる「Stream Deck Everywhere」戦略の活動の心臓部。

あなたの「作りたい」に寄り添う3つの選択肢:全モデル徹底比較

Stream Deck Moduleの全3モデル(6, 15, 32キー)を比較し、あなたに最適な1台を選ぶための比較リストのイメージイラスト。
キー数、サイズ、価格…スペックだけじゃない!3つのStream Deck Moduleから、あなたの「作りたいもの」に本当に合うモデルを選ぶための3つの重要ポイント。

さて、Moduleが「組み込み用の部品」であることはご理解いただけたかと思います。Elgatoは、私たちの様々な「作りたい!」という想いに応えるために、キーの数が異なる3つのモデルを用意してくれました。

ここでは、それぞれのモデルがどんな特徴を持っているのかを、じっくり比較していきましょう。

3モデルに共通する、信頼の技術基盤

個別のモデルを見る前に、まずは3兄弟に共通するDNA、つまり技術的な土台について触れておきましょう。どのモデルを選んでも、Stream Deckが長年培ってきた高い品質はそのまま受け継がれています。

Stream Deck Moduleの特徴
  • 🎨 鮮やかな液晶キー:各キーには72×72ピクセルの美しいLCDディスプレイが搭載されています。これはまさにStream Deckの象徴。静止画だけでなくアニメーションも表示でき、視覚的に分かりやすい操作パネルを作れます。
  • 🏗️ 頑丈なアルミの骨格:ブランドロゴのない、耐久性の高いアルミニウム製シャーシでコア部品が守られています。どんな環境に組み込まれても、長く安定して動作するための堅牢な設計です。
  • 🔗 安定のUSB-C接続:接続は汎用性の高いUSB-Cポート(USB 2.0規格、480 Mbps)を採用。多くのデバイスと簡単に接続できます。
  • 🧠 サクサク動く頭脳:内部には高速なARMベースのマイクロコントローラー(MCU)が搭載されており、キーを押したときの反応もスムーズで、シームレスな動作を実現します。

注目すべき選択:なぜ最新のキーではないのか?

ここで少しマニアックですが、とても重要な話をします。Elgatoは、一部の新しい個人ユーザー向けモデルで「シザーキー」という、よりカチッとした打鍵感の良いキースイッチを採用しています。しかし、今回のModuleシリーズでは、あえて全モデルで旧来の「メンブレンスイッチ」を統一して採用しているのです。

「なぜ最新の技術を使わないの?」と不思議に思うかもしれません。しかし、これこそがElgatoのプロ意識の表れなのです。

Moduleが組み込まれるのは、個人のデスクの上だけではありません。何千万円もする放送機材や、24時間365日動き続ける工場の制御システムかもしれません。そうしたプロの現場で最も重要視されるのは、目新しさや高級な打鍵感ではなく、何があっても壊れない、長年の実績に裏打ちされた信頼性です。

メンブレンスイッチは2017年の初代Stream Deckから採用され、「現場で実証済み」であり、「世界中の数百万人に信頼され」てきた、まさに歴戦の技術です。自社製品に組み込む部品の寿命と信頼性を保証する必要があるOEMパートナー(企業の開発者)にとって、この「長年の稼働実績」は何物にも代えがたい安心材料となります。

さらに、一般的にメンブレンスイッチは製造コストも抑えられます。プロの顧客が最も重視する「実績ある信頼性」「長期的な耐久性」「大量購入時におけるコスト効率」という3つの要素を最適化する選択、それがメンブレンスイッチだったのです。これは、Moduleが本気でプロの現場を目指していることの力強い証明と言えるでしょう。

モデル比較表:あなたに合うのはどれ?

まずは一覧表で、3兄弟のスペックを比較してみましょう。

スクロールできます
特徴Stream Deck Module (6キー)Stream Deck Module (15キー)Stream Deck Module (32キー)
キー数6個のカスタム可能なLCDキー15個のカスタム可能なLCDキー32個のカスタム可能なLCDキー
寸法 (D x W x H)19 x 71 x 51 mm20 x 107 x 70 mm25 x 169 x 103 mm
重量57 g115 g292 g
インターフェースUSB-C (デバイス上のPHポート経由)USB-CUSB-C
Elgatoの推奨用途単機能アプリ、キオスク端末スタンドアロンデバイス、ダッシュボード複雑なアプリケーション、プロ環境
参考価格8,480円21,480円33,480円

詳細分析1:Stream Deck Module (6キー)

  • どんなモデル?:ラインナップの中で最も小さく、ミニマルなモデルです。寸法は19 x 71 x 51 mm、重さはわずか57g。手のひらにすっぽり収まるサイズ感です。
  • 接続の注意点:このモデルだけ、USBの接続方法が少し特殊です。一般的なUSB-Cポートではなく、デバイス本体にある「PH(ピンヘッダー)ポート」という小さなコネクタを経由します。もちろん、標準的なUSB-Cケーブルも付属していますが、自作のケースにぴったり収めたい開発者にとっては、この小さな違いが重要な設計上のポイントになるかもしれません。
  • 想定される使い方:Elgatoは「単機能のアプリケーション」や「キオスク端末」、「スペースに制約のあるビルド」を想定しています。例えば、特定のソフトの再生・停止だけを操作する専用コントローラーや、展示会場の案内端末のボタン、スマートホームの照明スイッチなど、役割を一つに絞ったシンプルな制御に最適です。

詳細分析2:Stream Deck Module (15キー)

  • どんなモデル?:お馴染みの「Stream Deck MK.2」と同じキー数を持つ、最もバランスの取れたモデルと言えるでしょう。寸法は20 x 107 x 70 mm、重さは115 g。十分なキー数を確保しつつ、コンパクトさも両立しています。
  • 接続:こちらは標準的なUSB-Cポートを搭載しており、接続も簡単です。ただし、ソース情報によるとケーブルが付属するかどうかについて、ヘルプドキュメントと販売サイトでわずかな情報の不一致が見られます。購入を検討する際は、販売ページで同梱品をしっかり確認するのが良さそうです。
  • 想定される使い方:Elgatoが「バランスの取れた作業の流れの最適な選択肢」と表現するように、まさに万能選手です。「スタンドアロンデバイス、ダッシュボード、またはパネルへの統合」に最適とされており、個人が作るオリジナルデバイスや、映像編集用のコンパクトな操作パネルなど、幅広い用途に対応できます。

詳細分析3:Stream Deck Module (32キー)

  • どんなモデル?:圧倒的なキー数で、「最大限のコントロール」を実現する最上位モデルです。寸法は25 x 169 x 103 mm、重さは292 gと、存在感も抜群です。
  • 接続の注意点:こちらも接続は標準のUSB-Cポートですが、実際に購入したユーザーのレビューによると、本体から「小さなUSB基板」が少し突き出ているとのこと。筐体を自作する際には、この突起部分を考慮した設計が必要になりそうです。また、15キーモデルと同様に、ケーブルの同梱については情報に少しばらつきがあるため、購入前の確認をおすすめします。
  • 想定される使い方:プロフェッショナルのためのモデルです。Elgatoは「複雑なアプリケーション、多層的なインターフェース、またはフル機能のプロフェッショナルな環境」をターゲットにしています。考えられるのは、放送局のスイッチャー、ライブイベントの照明・音響・映像を統合したコントロールサーフェス、フライトシミュレーターの本格的なコックピットなど、膨大な数のコマンドを瞬時に呼び出す必要がある、まさにプロの現場です。

注目ポイント📌
🔑 共通の心臓部:どのモデルも、美しい液晶キー、頑丈なアルミ骨格、サクサク動く頭脳を搭載。
🛡️ あえての旧技術:最新のキーではなく、長年の実績と信頼性がある「メンブレンスイッチ」を採用。プロの道具としての覚悟の表れ。
🤏 6キーモデル:コンパクトさを活かし、一つの機能に特化した専用コントローラー作成に最適。
⚖️ 15キーモデル:キー数とサイズのバランスが良く、個人制作からパネル統合まで幅広く使える万能選手。
✈️ 32キーモデル:圧倒的な情報量を扱える、プロの現場や複雑なシステム構築のための最上位モデル。

で、結局これは誰のためのもの?3つのユーザー像から見るModuleの可能性

Elgato公式サイトが公開した「Stream Deckモジュールをセットアップに組み込む」方法の解説記事のスクリーンショット。この記事で解説する3つのユーザー像が、まさに公式のターゲットであることを示している。
Elgato自らが「組み込み方」を徹底解説!この記事で紹介する3つのユーザー像(DIYクリエイター、開発者、プロ)こそ、Moduleが狙う人物像であることを、この公式ガイドが何より雄弁に物語っています。

これほどまでに特殊な製品、一体どんな人が、どのように使うのでしょうか? Elgatoは、大きく分けて3つのタイプのユーザーを想定しています。彼らの姿を具体的に見ていくことで、Moduleが持つ無限の可能性が見えてくるはずです。

ユーザー像1:自分だけの最強ツールを作りたい「DIYクリエイター」

まず最初の対象は、私たちに最も身近な存在かもしれません。これまで市販のStream Deckを改造して、自分だけの理想のツールを作り上げてきた、情熱あふれるDIY愛好家やホビイストたちです。

DIYクリエイター
  • こんなユーザーへ:既製品では満足できず、「もっとこうだったら良いのに」を自分の手で形にする人たち。3Dプリンターを駆使してオリジナルのケースを作ったり、電子工作の知識を活かして他のデバイスと連携させたりすることに喜びを感じるクリエイターです。
  • Moduleがもたらす価値:彼らにとってModuleは、まさに「救世主」です。これまで製品を傷つけるリスクを冒しながら行っていた”分解”という面倒な手間を、完全にスキップさせてくれます。Elgatoが言うように、まさに「すぐにいじり始められる」環境が、公式に提供されたのです。
  • 具体的なプロジェクト例
    • ワイヤレスStream Deck:あるユーザーは、32キーModuleとバッテリー、無線化のための部品を組み合わせ、3Dプリンターで作ったケースに収めることで、ケーブルの呪縛から解放された完全ワイヤレスのStream Deckを製作しました。
    • ライブイベント統合コントローラー:別のRedditユーザーは、32キーModuleにRaspberry Pi(小型のコンピューター)やタッチスクリーンを組み合わせ、ライブイベントで使われる照明(DMX)、音響、映像のすべてを一台で制御できる、プロ仕様の複雑なコントロールサーフェスを構築しています。
    • その他:ゲーム用のカスタムマクロキーボード、スマートホーム機器を直感的に操作するための壁埋め込みパネル、動画編集ソフトのタイムライン操作に特化したジョグダイヤル付きコントローラーなど、アイデア次第で可能性は無限に広がります。

ユーザー像2:新しいアイデアを形にしたい「起業家・開発者」

次の対象は、新しいハードウェア製品を開発し、世に送り出したいと考えている中小企業やスタートアップ、個人の起業家です。

起業家・開発者
  • こんなユーザーへ:「こんな製品があったら絶対に売れるはずだ」という革新的なアイデアを持っているものの、それをゼロから開発するための時間や資金、技術力に課題を抱えている人たちです。
  • Moduleがもたらす価値:Moduleは、彼らの研究開発の時間とコストを劇的に削減します。オリジナルの操作パネルを、液晶画面やキースイッチ、基板設計からすべて自前で開発しようとすれば「数ヶ月、場合によっては数年」という時間と、莫大な開発費がかかります。しかしModuleを自分たちの製品に組み込むだけで、Elgatoが長年かけて作り上げてきた「現場で実証済み」の信頼性の高いインターフェースを、すぐに利用できるのです。
  • 成功への鍵:活動の糧を守る「ロイヤリティフリー」:この話で最も重要なのが、Elgatoがロイヤリティ(製品が売れた時に支払うライセンス料)を一切請求しないという点です。つまり、起業家はModuleを使って作った自社製品を販売し、「利益のすべてを保持できる」のです。これは、資金力に乏しいスタートアップにとって、新しい挑戦へのハードルと事業のリスクを大幅に引き下げる、信じられないほど大きなメリットです。

ユーザー像3:プロの現場を進化させたい「システム開発のプロ」

最後の対象は、放送、ヘルスケア、ホスピタリティ、エンターテインメントといった、様々なプロフェッショナルな現場で使われる機材を開発する、OEMやシステムインテグレーターと呼ばれる専門家たちです。

システム開発のプロ
  • こんなユーザーへ:テレビ局の副調整室にあるような巨大なスイッチャーや、コンサートホールで使われる照明・音響システム、工場の生産ラインを管理する制御盤などを設計・開発するプロ集団です。
  • Moduleがもたらす価値:これらの業界では、昔ながらの物理的なボタンが並んだ、古くて使いにくい操作パネルがいまだに使われていることも少なくありません。Moduleは、そうした旧式の制御パネルを、ダイナミックでカスタマイズ可能な最新のインターフェースへと置き換える手段を提供します。これにより、現場の仕事の流れを近代化し、作業効率を上げ、「業界をリードする」ような新しいシステムを構築できるのです。
  • 具体的な活用イメージ
    • 放送業界:Elgato自身もこの分野を重視しており、プロモーション写真ではModuleがTelemetrics社のロボットカメラ制御パネルに統合されている様子が紹介されています。また、ResolumeやGrandMAといったプロ用ソフトウェアの専用コントローラーを自作するユーザーもいます。
    • その他産業:スマートホームの集中管理ラック、インタラクティブなキオスク端末、医療現場のカスタム制御システムなど、その応用範囲は計り知れません。

なぜElgatoはライセンス料を取らない「ロイヤリティフリー」で販売するのか?

ここで少し、視点を変えてみましょう。なぜElgatoは、ここまで手厚く外部の開発者を応援するのでしょうか?特に、活動の糧の源泉とも言えるライセンス料を取らない「ロイヤリティフリー」は、一見するとElgatoにとって損な話にも聞こえます。

その答えは、彼らが単なるハードウェア販売に留まらない、壮大な仕組み(生態系)戦略を描いているからです。

世の中には、非常に専門的でニッチな市場がたくさん存在します。例えば、特定のシミュレーションゲーム専用のコントローラーや、特殊な医療機器の操作パネルなどです。こうした市場は、Elgatoのような大企業が一つ一つ製品を開発して対応するには、規模が小さすぎることが多いのです。

そこでElgatoは、Moduleという「素材」を提供することで、私たちのような中小企業や個人クリエイターが、そうしたニッチな市場向けの製品を開発できるようにしたのです。

誰かがModuleを使って素晴らしい新製品を開発する。その製品は、当然Elgatoのソフトウェアやプラグインを利用します。そうしたサードパーティ製品が増えれば増えるほど、Stream Deckという土台に依存するハードウェアが増え、さらに多くの開発者がその土台向けのプラグインを作るようになります。

この好循環が「ネットワーク効果」を生み出します。Moduleを搭載した製品が増えるほど、Stream Deckという土台全体の価値が高まり、競合他社には到底真似のできない、強力な「堀」となるのです。クリエイターを応援することが、最終的にElgato自身の強みになるという、とても賢い選択と言えるでしょう。

注目ポイント📌
🛠️ DIYクリエイター:製品の分解はもう不要。公式に提供された「素材」を使って、あなたの理想のツールを自由に創造できる。
💡 起業家・開発者:開発時間とコストを大幅にカット。ロイヤリティフリーなので、リスクを抑えて新しいアイデアを製品化できる。
🎬 システム開発のプロ:旧式の制御システムを近代化。放送、医療、エンターテイメントなど、あらゆるプロの現場の効率を向上させる。
🤝 Elgatoの賢い戦略:クリエイターがニッチな製品を作ることを応援することで、Stream Deckの世界全体が豊かになり、誰も真似できない土台を築き上げる。

導入を考える人へ:知っておきたい開発の現実と注意点

開発者最大の課題である筐体設計を支援するため、Elgatoが公式に提供しているStream Deck Module全3モデルのCADファイルダウンロードページのスクリーンショット。
【神対応】開発最大の壁は、Elgatoが解決する。ソフトウェアは万全でも、物理的な組み込みが最大の課題。その現実を知るElgatoが、全モデルの3D設計図(CADファイル)を無償提供。この1ページが、あなたのDIYプロジェクト成功率を99%引き上げる。

さて、ここまでStream Deck Moduleの可能性について解説してきました。しかし、どんな強力なツールにも、使いこなすための知識や、知っておくべき注意点が存在します。

特にModuleは「部品」であるため、導入を検討する際には、ソフトウェアとハードウェアの両面から、その現実を正しく理解しておくことが不可欠です。

頼れるソフトウェア環境:すぐに使える公式アプリと開発者ツール

まず、ソフトウェア面に関しては、心配することはほとんどありません。

Moduleは、私たちが普段使っているPCおよびMac向けの公式Elgato Stream Deckアプリケーションと、箱から出してすぐに連携できます。これはつまり、これまで培ってきた設定のノウハウや、作り溜めたプロファイル、自作のアイコンなどを、そのままModuleで活かせるということです。

さらに、放送業界などで絶大な支持を得ている「Bitfocus Companion」のような、強力なサードパーティ製ソフトウェアとも問題なく連携します。これにより、開発者はElgatoが運営する公式ストア「Marketplace」にある膨大な数のプラグインやアイコン、プロファイルのライブラリを最大限に活用できるのです。

そして、より深く、より自由にModuleを操りたいと考える開発者のために、Elgatoは2つの道を用意しています。

  1. SDK (Software Development Kit):これは、Stream Deckアプリの環境の中で動く、高レベルの「プラグイン」を自分で作るための道具一式です。例えば、「自社で開発した新しいソフトとStream Deckを連携させたい」といった場合に最適です。
  2. HID (Human Interface Device) ドキュメント:こちらは、より高度で、ハードウェアの根幹に触れるための設計図のようなものです。これを使えば、Stream Deckアプリを完全にバイパスして、OSレベルでハードウェアを直接制御できます。公式ソフトが使えない組み込みシステム(例えばLinuxベースの小型コンピューターなど)や、「OEMソリューション、および高度なメーカープロジェクトに最適」とされています。

このように、ソフトウェアに関しては、初心者から超上級者まで、あらゆるレベルのニーズに応える盤石の体制が整っていると言えるでしょう。

Elgatoは、製品を組み込む際に必要となる3Dモデル(CADファイル)を公式サイトで提供しています。これは、自作でケースを設計するユーザーにとって非常にありがたいサポートです。

注目ポイント📌
💻 ソフトウェアは盤石:公式アプリがそのまま使える安心感。初心者からプロまで満足させる開発ツール(SDK/HID)も完備。
⚠️ 現実的な期待値を:Moduleは素晴らしいパーツですが、それを美しい製品に仕上げるには、特にハードウェア面での作り手のスキルと創意工夫が試される。

まとめ:「Stream Deck Everywhere」という、創造性の未来

Elgatoが掲げる「Stream Deck Everywhere」構想が世界中のあらゆる場所に広がる未来を象徴するイメージイラスト。
デスクの上から世界中へ。Stream Deck Moduleが実現する「Stream Deck Everywhere」構想が、私たちの創造性をどこまで連れて行ってくれるのか、その壮大な未来像。

今回は、Elgatoが放つ新しいコンセプトの製品、「Stream Deck Module」について、その核心に迫ってみました。

分析を通して見えてきたのは、Moduleが単なる「Stream Deckの中身」や「DIYキット」という言葉だけでは語り尽くせない、Elgatoのデバイスメーカーからプラットフォーム提供者への進化する、戦略的な製品であるということです。

技術を、あえて”むき出し”のままで解放すること。それは、Elgato一社だけでは決して作り得なかったであろう、無数の新しいアプリケーションやツールが、世界中のクリエイターや開発者の手によって生まれることを信じているからです。

カスタムのシムレーシング用ダッシュボード、医療用の画像処理コントローラー、ニッチな音楽制作のための専用機材。Moduleを使って作られたすべての新しい製品は、Stream Deckという巨大な仕組みの新たな一部となり、その世界をさらに豊かで魅力的なものにしていくでしょう。

物理的な組み込みサポートに大きな課題が残されているのも事実です。しかし、それすらもDIYの楽しみと捉えられるような、チャレンジ精神あふれるクリエイターにとって、これほど心躍る”素材”は他にありません。

Stream Deck Moduleは、私たちの頭の中にある「こんなツールがあったらな」という漠然としたアイデアを、現実に引き出すための新しい選択肢です。

この小さな魔法の部品が、あなたの、そして私たちの創造性をどこまで連れて行ってくれるのか。その未来が、今から楽しみでなりません。


この記事の制作プロセスについて
CreateBitの記事は、「AIをクリエイティブな時間を確保するためのパートナー」として活用し、すべて筆者の最終的な責任のもとで編集・公開しています。CreateBitのAI活用とコンテンツ制作に関するより詳しい基本方針は、こちらのページでご覧いただけます。

【免責事項】 本記事で扱う製品の仕様、価格、および関連情報は、メーカーの都合や市場の変動により、予告なく変更される可能性があります。この記事は、クリエイターである筆者が自身の視点から情報を整理し、皆様の創作活動の参考となることを目的として執筆したものです。そのため、掲載された情報が最新でない可能性や、あくまで解釈の一つに過ぎない場合があることをご理解ください。特に、本記事で紹介されているDIY(自作)プロジェクトに関する記述は、読者の皆様の自己責任において行っていただくものです。製品の組み込みや改造によって生じたいかなる損害(製品の破損、データの損失、人身への傷害などを含むがこれらに限定されない)についても、当ブログでは一切の責任を負いかねます。本記事は、技術的な助言やその内容の完全な正確性を保証するものではありません。製品の購入やプロジェクトの実行にあたっては、必ず公式サイトなどの一次情報源をご確認の上、ご自身の判断で安全に十分配慮していただきますようお願い申し上げます。

📚 参考ソース

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

元デザイン会社のディレクターです。クリエイティブ現場で役立つ効率化のコツ、便利なサービス、海外デザイン素材を紹介。AI時代のクリエイターの新しい働き方を深く掘り下げていきます。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次